世界一簡単な時間結晶の理論。


今回は時間結晶(タイムクリスタル)の説明をします。これは空間方向ではなく時間方向に離散的な並進・回転操作によって一定の単位構造によって系全体を埋められる系のことです。結晶というのは、単位構造に対して並進操作、回転操作を有限あるいは無限回繰り返すことによって重複なく全体のうち任意の単位構造に遷移可能な系のことです。例えば、図1のような2次元正三角形格子を考えます。この格子における単位構造は正三角形を上下につないだひし形状の赤い部分です。この単位構造は、原子を軸とした60度の回転と、一辺の長さ分のそれに沿った移動で位置の異なる他の単位構造に移動できます。

図1 正三角形2次元格子とその単位構造。


時間結晶は時間方向に単位構造が存在します。つまり、周期構造変化が起こります。但し、ラビ振動のように外部からレーザーを印加するなどの操作を加えている間のみの現象ではなく、自発的な現象です。この現象は一定周期T=T1+T2T=T_1+T_2 で2種類以上のハミルトニアンを交互に掛けることで実現します。


H1=g(1ϵ)lσlx  (0<t<T1)H_1=\hbar g(1-\epsilon)\sum_l\sigma_l^x ~~(0<t<T_1)

H2=mJlmzσlzσmz+lBlzσlz(T1<t<T2)H_2=\hbar\sum_{m}J_{lm}^z\sigma_l^z\sigma_m^z+\hbar\sum_lB_l^z\sigma_l^z(T_1<t<T_2)


このハミルトニアンのうち、H1はグローバルな全粒子の回転を、H2は一粒子とその他全粒子との間の相互作用を作るものです。H2の内初項と第2項は別々にかけられることもあり、系によっては初項のみです。特にH2の初項はタイムクリスタルの持続時間を決めるものです。このハミルトニアンはフロケ格子と呼ばれ、これを掛けることでT/2の周期を有するタイムクリスタル振動を起こすことができます。時間結晶は量子力学的な現象ですが、その実、力学、電磁気学の教科書に出てくる保存量系と変わりません。時間結晶においてはそれ自身が共振回路、タイムクリスタル振動する状態間の遷移が共振回路内の電磁場に相当する保存量、H2の初項が発電、H1が共振回路に隣接する変圧器に相当します。この現象はどのような量子系にも起こすことが可能ですが、イッテルビウムイオン[1]を用いた1次元系とダイヤモンドにおける窒素欠陥[2]においてこれを実験で実現したことが報告されています。更に時間結晶自体の時間変化を利用して、エンタングルメント構造を成長させる研究もなされています[3]。この分野が発展するのはまだこれからです。今後の発展が楽しみなところですね。


[1][1609.08684] Observation of a Discrete Time Crystal (arxiv.org)

[2][1610.08057v1] Observation of discrete time-crystalline order in a disordered dipolar many-body system (arxiv.org)

[3][1907.13146] Simulating complex quantum networks with time crystals (arxiv.org)

Hikaru Wakaura
個人研究者の若浦 光です。量子アルゴリズムの実装結果や論文の紹介などを載せていきます。 mail: hikaruwakaura@gmail.com
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