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コラム 量子コンピュータの時代が来る

Quantum Business Magazine 5 months ago


By Doug Finke


このコラムは、量子コンピューティングの現状について、概要を説明するものです。特に最近興味を持ち始めた方に向けて書きました。さらに詳しく知りたければ、先日ネバダ州ラスベガスで開催されたイベント「HPE Discover 2022」のパネルセッションのビデオをご覧いただくことをお勧めします。パネルには私の他に、HPEフェローでHewlett Packard LabsのVP兼チーフアーキテクトのKirk Bresniker氏、Classiqの共同創業者でCTOのYehuda Naveh氏、モデレーターでTVテクノロジージャーナリストのShini Somara博士が参加しています。


さて、量子コンピュータは私たちが知っているような既存の産業を破壊し、未来へ離陸する準備ができているのでしょうか?私は、量子コンピューターに関するあらゆる情報を提供するアナリストとして、毎日このような質問を受けます。私の答えは、何十年も前から言われている「アマラの法則」を引用し「私たちは、ある技術の効果を短期的には過大評価し、長期的には過小評価する傾向がある」、つまり、将来性には期待していますが、すぐに革命的なブレークスルーを期待するのは慎重に、です。


まず、量子コンピュータとは何でしょうか。一言でいうと、量子力学を利用して計算を行う新しい技術のことです。量子コンピュータは、重ね合わせ、もつれ、干渉といった量子力学的現象を利用して、新しいタイプのアルゴリズムを作り出し、古典的なコンピュータよりもはるかに速く特定の計算を実行することができます。 


各国政府も注目しています。中国は、今後5年間で量子コンピューティングに153億ドル(約2.1兆円)を投資する計画を発表し、EUは72億ドル(約1兆円)以上、米国は19億ドル(2,600億円)以上を投入しています。また、日本、英国、インド、カナダなどの国々も、それぞれ10億ドル(約1.300億円)以上の資金を量子技術に投入しています。投資家も同様。マッキンゼーによると、量子スタートアップへの投資額は2021年に14億ドルを超え、前年比2倍以上になりました。



「量子準備完了」フェーズへ


現世代の量子コンピュータは、商業的に関連するアプリケーションにおいて、まだ古典的なコンピュータの能力を超えるほど強力ではありません。しかし、量子技術は非常に急速に進歩しており、今後2~3年の間にいくつかの量子アプリケーションが実用化されるだろうと予想できます。多くの企業は、量子技術に精通し、より強力なプロセッサーが利用可能になったときにそれを活用するために、今から量子プログラムを開始することで、業界での競争優位性を追求しています。昨年、量子ソフトウェア企業の Classiq が 500 社以上の企業経営者を対象に行った調査では、89.8%が、IT 部門が量子コンピューティング技術に特化した予算を持つべきと考えており、61.9%が自社がすでに量子コンピューティングに予算を割り当てていると報告しています。


量子コンピュータ技術における重要な課題は、量子ビットゲートが外部環境からの妨害に対して非常に敏感であるため、エラーレートが比較的高いことです。研究者たちは、この問題を解決するために熱心に取り組んでおり、業界では量子コンピューティングの開発は2つのフェーズに分かれると見ています。


現在のフェーズはNoisy, Intermediate Scale Quantumの略で、「NISQ」と呼ばれています。技術者は、システムの不正確さの原因となるノイズを完全に除去できないことを受け入れ、それを低減する技術を開発しています。また、賢いプログラマーは、ノイズが残っていても、ある応用問題に対して有用な解を出せるようなアルゴリズムを開発しています。私たちは、NISQレベルのコンピュータで、すぐに実現可能な商用アプリケーションがいくつか出てくるだろうと予想しています。


次のフェーズは、「フォールトトレラント量子コンピューティング」と呼ばれ、エンジニアがエラー修正アルゴリズムを開発し、プログラマーがエラーの問題を効果的に排除することで、より多くの商用量子アプリケーションを開発できるようにするものです。このようなフォールトトレラント量子コンピュータを作ることは、まだ困難な課題であり、現在よりもはるかに大きなプロセッサが必要になるでしょう。しかし、いくつかの組織が成功し、10年後までにこれらのマシンが利用可能になることを期待しています。



量子コンピューティングが貢献できる分野


量子コンピュータは、電子メールやWebブラウズ、会計などの一般的な消費者向けアプリケーションにはあまり役立ちません。それでも、量子コンピュータが違いをもたらすはずの刺激的なアプリケーションがたくさんあります。


量子コンピュータが実用化されるのは、古典的なコンピュータでは解決できない、あるいは極めて困難な問題を解決できるようになってからです。私たちはこれを「量子的優位性」と呼んでいます。量子コンピュータを使って、量子レベルの化学反応をシミュレートすることは、ごく自然なことであり、非常に重要な応用分野です。この種のアプリケーションには、創薬、材料設計、炭素捕捉や太陽エネルギー変換といった気候変動に関連する重要な問題が含まれています。


最適化もまた、量子テクノロジーが恩恵をもたらす主要なアプリケーションの1つです。多くの産業が、量子コンピューティングによって、企業運営の最適化を図ることができるようになるでしょう。例えば、金融業界では、ポートフォリオの最適化、信用リスク分析、モンテカルロ・モデリング、取引戦略などを改善することが。また、ロジスティクスを扱う企業では、車両のルーティングやネットワークの最適化、プロセスや製造フローの最適化などに、量子テクノロジーを活用することができるでしょう。


そして、3つ目の応用分野は、量子機械学習機能。量子力学は、さまざまな機械学習の問題に対して、従来のコンピューティングのアプローチと比較して、大幅なスピードアップや精度の向上を実現できる可能性があります。例えば、金融機関の不正検知やマネーロンダリング防止、画像認識、ニューラルネットワークの学習などが挙げられます。



量子コンピュータと古典コンピュータが共存する時代へ


量子コンピュータが古典的なコンピュータに取って代わることはあるのでしょうか?それはないでしょう。電子メールを読む、ウェブサイトを運営する、金融取引のデータベースを管理する、インターネットを閲覧する、銀行の残高を計算するなど、現在コンピュータで行っているほとんどの作業は、量子コンピュータには適していません。


実際、多くの人が、ほとんどの量子コンピューティングは、量子と古典が一緒に働くことで実現されると考えています。GPUが古典プロセッサーをサポートするコプロセッサーとして使われているのと同じようなものだと考えているのです。



Quantumの暗号問題


今日、人々が話題にしている問題のひとつに、遠い将来、量子コンピュータがもたらす脅威があります。量子コンピュータの性能が上がれば、現在インターネット上で使われているRSA暗号を破ることができるようになると専門家は考えているからです。今すぐには実現しませんが、10~15年後には実現しそうです。これは、医療記録のような保存期間の長いデータにとって問題となり、ポスト量子暗号(PQC)や量子鍵配送(QKD)と呼ばれるソリューションがあります。企業では、数千のシステムを量子暗号に耐えられるようにアップグレードしなければならないかもしれないので、企業リーダーは、この計画を立て始めなければなりません。



量子力学的な人材育成


量子のハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズム、システム設計についてはまだ研究が必要ですが、スキル開発についても優先順位を高くする必要があります。訓練を受けた人材が不足していることが、この産業の成長を阻んでいるかもしれません。幸いなことに、政府や民間の業界団体は、この問題に対する解決策を導入し、人々の訓練を受けさせようと推進しています。


全米科学財団、国立標準技術研究所(NIST)、ホワイトハウス量子調整事務所、量子経済開発コンソーシアム(QED-C)など、多くの組織が量子労働力の構築を支援するプログラムを持っています。私はQED-Cのイニシアチブに参加していますが、これは学生を刺激し、教授がカリキュラムを組み立てるのを支援することを目的としています。多くの作業が必要ですが、前進しています。



今後に向けて伝えたい事


量子の影響が本格的に現れるのはまだ数年先と考えられます。それでも、IT管理者が量子の未来に向けて準備すべきことがあります。


  • RSAブレイクへの備え。純粋に防御のためとはいえ、IT管理者は今すぐにでもプログラムを開始すべきです。RSAベースの暗号を使用していたシステムを、新しいアプローチを使用して量子耐性を持つように変換するだけでも、何年もかかるでしょう。
  • 大企業であれば、すべてのシステムを探し出し、量子的な耐性を持つように変換するのに5~10年はかかるでしょう。ITシステムのインベントリーを作成する、どのようなデータを保護する必要があり、そのデータの保存期間が長いのか、またそのようなデータを扱うシステムは何なのかを調べます。
  • 量子技術の利用事例を把握。組織内の様々なITプロセスを調査し、どのプロセスが量子技術によって高速化または改善される可能性があるのかを確認しましょう。
  • 量子技術のスキルアップ。量子コンピュータの開発に伴い、IT マネージャは熟練したオペレータを必要とするようになるでしょう。量子環境下での職務内容を検討し、その職務に就く候補者を探しましょう。また、量子テクノロジーを導入するために、外部のコンサルタントを活用することが有効かどうかも検討しましょう。


最後に


量子がすぐにでも世界を変えてくれると期待しているマニアに、アドバイスとしては。今は我慢してください。量子コンピュータは必ずやってきます。毎年、少しずつブレークスルーが起きていますし、技術の進歩のために資金が投入されています。また、その将来的な影響力を過小評価しないでください。明日にでも役立つ技術を利用するために、今日から行動を起こしましょう。

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米国のQuantumComputingReportからの翻訳記事にオリジナルの量子業界の記事を加えてお届けしています。

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