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コラム:2022年の展望 量子ハードウェア ⑨ 中性原子 シリコンスピン ダイヤモンド Cat qubits

Quantum Business Magazine a year ago


By David Shaw, 「Fact Based Insight」


この記事の原文は、「Fact Based Insight」のウェブサイトからで、許可を得て再掲載しています。原文はこちら から。


2022年の展望 量子ハードウェア ① 概要

2022年の展望 量子ハードウェア ② 超伝導 IBM

2022年の展望 量子ハードウェア ③ 超伝導 Google

2022年の展望 量子ハードウェア ④ 超伝導 USTC,Rigetti,D-WAVE etc...

2022年の展望 量子ハードウェア ⑤ イオントラップ IonQ

2022年の展望 量子ハードウェア ⑥ イオントラップ Quantinuum(Honeywell)、Universal Quantum、Oxford Ionics、etc..

2022年の展望 量子ハードウェア ⑦ 光量子 PsiQuantum

2022年の展望 量子ハードウェア ⑧ 光量子 USTC、Xanadu、QuiX、etc..



★ 中性原子がリードするアナログ・シミュレーション ★



中性原子を利用したシステムも、引き続き2021年にエキサイティングだ。ColdQuantaQuEraPasqalAtom ComputingM Squaredなど、この技術を追求する企業の数が増え続けている。



QuEraは、2021年に256原子のアナログ量子シミュレーターの実証を行い、大きな一歩を踏み出した。冷却原子の2次元配列は、完全な量子ビットゲートを実装はしていないが、類似した量子系のダイナミクスを再現するようプログラム可能だ。この結果は、既に科学的に意味を持ち、潜在的に広く応用できる可能性がある[50]。



フランスのスタートアップであるPasqalもこの道を歩んでいる。創設者は、200原子のアナログ量子シミュレータを実証している[51]。同社は、この方式()で、何ができるのかを重要視し、ゲートモデル・デバイスに向けてさらに歩みを進めている。



Atom Computingは、同じ道を歩むもう一つのスタートアップだ。2021年は、100原子シミュレータの発表と、注目されていた人材を獲得した。



ColdQuantaは、中性原子技術における早くからのリーダー的存在だ。この技術を量子コンピューティングの基盤として応用する研究は、DARPA(米国防高等研究計画局)のONISQ(最適化されたNISQ)プログラムによって支援されている。2021年に、100Qのデバイスをクラウドに乗せるという目標にはわずかに届かないようだが、2022年の早い時期に達成されるようだ。




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QuEra Roadmap – 256 atom simulator (2021), 64Q (2022), 1024Q (2024); Error correction using Steane-7

Pasqal roadmap – 200 atom simulator (2021), 1000Q (2023)

ColdQuanta roadmap – H1 100Q 4X connectivity (2021, now early 2022), H2 200Q 8X, H3 300Q 20X, H4 1000Q 50X (2024), H5 2000Q+ 60X+ ーーーーーーーーーーーーーー




アナログ量子シミュレータとしては、中性原子が先行している。またそのトラップの特性を考慮すると、1,000Qまでのスケールアップが明確に見えている。さらにColdQuantaは、1mm2の極小フットプリントで10万Qのデバイスが可能であると想定しているが、必要な光学系の複雑さを管理できるかが大きな課題となることを認めている。



このようなシステムが汎用的なゲートモデルの量子コンピュータとして動作するかどうかは、2021年にカリフォルニア工科大学で99.1% の2Qゲート忠実度が実証されたことで、いよいよ高まった[52]。これは原子の高度に励起された「リュードベリ状態」を利用するものだ。しかし、Fact Based Insightが認識しているベストなものとして、99.9%を超える道は示されていない[53:54]。また、読み出し、特にリセットのサイクルタイムもこの技術の課題であると思われる。一般に言って、FTQCへの技術的な道筋はあまり確立されていない。



中性原子に注目する重要な点として、エコシステムの他の分野、特に量子センシングの分野において、強い存在感を示していることが挙げられる。



M Squared社は、高性能レーザーで知られているが、すでにこの技術を量子センシングに応用できる確固たる地位を築いている。2021年には、独自の量子コンピューティングシステムの構築にも着手している。



★ シリコンスピン量子ビットが3段ジャンプに成功 ★



シリコンスピン量子ビットは、長く本質的な魅力を持っている。同位体として生成された28Siは、繊細なスピン量子ビットをホストするために'spin vacuum'を提供し、半導体産業で培われた製造技術を活用できる可能性がある。しかし残念ながら、繊細なスピン量子ビットが達成する忠実度は、他のプラットフォームに比べて遅れていた。



シリコンスピン量子ビットが大きな前進を見たのは、3つのチームが2Q忠実度が99%を超えたと発表したことだった。



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QuTechは、2Qテストデバイス(同位体濃縮28Si/SiGeヘテロ構造におけるゲート型2重量子ドット)において、99.5%の2Qgゲート忠実度を実証した[55]。このような2つの量子ドットを接続する能力も実証されている。

理化学研究所は、2Qテストデバイス(同位体濃縮された28Si/SiGeヘテロ構造の3重量子ドット)において、99.5%の2Qゲート忠実度を実証した[57]。

UNSWは、3Qテストデバイスにおいて99.37%の2Qゲート忠実度を実証した(ドナー量子ビットのスケーラビリティを示す概念の実証として、シリコンデバイス上に、イオン注入した1対の31P核により、電子スピンと2つの核スピンを結合することに成功した)[58]。 ーーーーーーーーーーーーーー



このように、成果は技術的・地理的に多様であるのは、この量子ビットプラットフォームの可能性を顕著に表している。学術チームによって探究されている技術は氾濫し、必ずしも相互に互換性はないが、それぞれが手を組むことで可能性の大きさを示すことができる。2021年には、他にも幾つかの重要な技術が実証されている。




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  • グローバルなマイクロ波フィールドによって駆動されるスピン量子ビットゲート UNSWは、スケーリング上の利点が期待できるため、いくつかのトラップドイオン研究者が追求しているのと同じ技術を使用して、スピン量子ビットゲートを実証した[59]。この技術では、磁場ノイズに対する感度を抑制するために、当初から「'dressed states'」を利用している。UNSW のチームは、この技術をシリコンに応用するために、より高次のノイズ抑制を約束する新しい強化された 「SMART」プロトコルを導入した[60]。

※訳者注:'dressed states'(レーザー光により相互作用をおこす量子の状態)

  • Germanium 別のアプローチとして、シリコンウェハー上のゲルマニウム層で正孔(電子の欠損)に基づいて量子ビットを定義する方法がある。これは有望なプラットフォームとして急速に浮上しており、2019年に最初のゲルマニウム量子ビットが、2020年には2量子ビットが実現し、2021年には4量子ビットのシステムが実証されている[61]。ゲルマニウムの進歩は,半導体技術を利用して2次元アレイの量子ビットをスケールアップできることを示す概念の実証である.

  • Photonic Inc フォトニック・インターコネクトをシリコンスピンプラットフォームに導入するための作業を継続する[62]。 ーーーーーーーーーーーーーー



Intelは、2021年にスピン量子ビットの長きにわたる潜在ポテンシャルを世界に思い起こさせた。QuTechとの共同研究で、最先端の300mmファブで量子ドット配列の製造を実証したのだ。最初の実証デバイスは、すでに1Qゲートの忠実度と、以前のテストデバイスに匹敵するコヒーレンス寿命を達成している[63]。スケーリングの可能性は計り知れないものがある。Intelが言うように、量子ドットは、トランジスタの電子1つのケースと同じなのだ。しかし一方で、スケールアップした大きなデバイスで起こりうるクロストークの問題は、まだ検討以前のままである。




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  • Lithography Intelは、要求される極めて高い品質を達成するためには、製造工場の設計ルールの遵守がとても重要であると指摘している。特に、量子ドットの製造に、これまで多く用いられてきた電子ビームリソグラフィではなく、すべて光リソグラフィー(化学的な機会研磨を含む)を採用したことがポイントとなっている。1枚のフィンに最大55個のゲート形成が可能だという。[63]

  • Cryo-CMOS また、IntelとQutechは、量子ビットのマイクロ波制御を駆動するために、3Kで動作可能な最新の極低温量子制御チップ「House Ridge Ⅱ」制御チップのベンチマークに成功した。[62] ーーーーーーーーーーーーーー



★ カーボンが持つ独自の可能性 ★



ダイヤモンドのNV centers(ダイヤモンド窒素-空孔中心)は、量子プラットフォームの一つである。

12C(炭素)は、核スピンを持たないため、量子ビットシステムにとって磁気的に中性なホストとなる。さらにダイヤモンドは、熱特性に優れているため、室温でもデバイスの性能を維持することができる(ただし、低温のほうが忠実度が上がる)。

欠陥中心の間のゲート忠実度にはまだ課題があるのだが、1つの欠陥に複数の同位体13C核スピンを結合させることで、高い忠実度を実現することが可能だ。このプラットフォームの好ましい光学特性は、量子インターネットの小型プロセッサーノード候補として挙げられることが表している。



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  • QuTech 本年の印象的なデモンストレーションでは、3つのNV Diamondノード(4K温度に冷却)の間でエンタングルメントを分布させたことだ。各ノードには、通信に使用される量子ビットが1つずつ入っていて、また、真ん中のノードでは、13C核スピンをメモリ量子ビットとして活用していた。 ーーーーーーーーーーーーーー



  • Quantum Brilliance社は、NV diamondを用いた室温量子コンピュータを開発するオーストラリアのスタートアップだ。「Gen1」というデスクトップシステムは既に発売されている。



    また、NV diamondの優れた特性は、量子センシングの分野でも飛躍的な発展を遂げようとしている。この技術に関しては、今後多くの情報が出てくると期待される。



    Archer社は、オーストラリアの材料技術企業で、量子技術市場への参入を計画している。開発の初期段階ではあるが、同社のカーボンナノスフィア技術は、スピン量子ビットのための新しい基盤オプションとなる。室温における量子ビットの寿命(175ns @ 300K [65])は、NV diamondよりも短いが、このプラットフォームは、新しい製造に柔軟性をもたらすことが期待される。今のところ量子ビットの論理演算は実証されていない。同社は、アジア、ヨーロッパ、米国で、既に一連の特許を取得している。



    C12の電子工学は、同位体純化したカーボンナノチューブで、スピン量子ビットを作っている。ここでも製造の柔軟性が重要な利点となっていて、その動作は、最大性発揮のために希釈冷蔵庫の領域をターゲットに期待されている。 [66]



    EeroQ社は、開発の初期段階ではあるが、液体ヘリウムの上に電子を閉じ込めた新しい形のスピン量子ビットを開発している。[67]



    ★ Cat qubitsが姿を現す ★

    (訳者注:cat states:「シュレディンガーの猫」を由来とする状態)


    AWSのチームは、量子エラー訂正の分野で、非常に意味のある内容の情報量を集め重視している。特にcat量子ビットを介したものを含め、オーバーヘッドを大きく削減したFTQCアーキテクチャの詳細がますます得られるようになった。[68]



    Alice & Bob社は、フランスのスタートアップで、すでにcat量子ビットの実現に乗り出している。[67]



    ★ 適切なもの ★



    量子コンピューティングの驚くような可能性を引き出すために、十分なパワーを持つデバイスを提供するための競争が続いている。明確にリーダーは出現しているが、その一方で、それぞれが異なるスケーリングの課題に直面している。NISQとFTQCのいずれにおいても、どの主要な量子ビット技術プラットフォームが成功するか明らかにはなっていない。量子インターネットにおけるFQQCアプリケーションの勝者もまた、異なる結果となるかもしれない。NISCアプリケーションの商業化に向けた進展が停滞すれば、これらの問題の重要性はさらに高まるのだろう。現在開発中の各技術は多様であり、新興企業の活躍の場は充分にあると言える。


    Fact Based Insightは、とにかくも、基本的な量子ビットの性能を実現することが、今や重要であろうと考えている。回路モデルで言えば、2Qゲートの忠実度は99.9%が最低ラインであろうし、99.99%+は、NISQ時代に幅広く量子優位性を求める人にとって、不安のある目標になるだろう。単体ゲートの結果だけでは(ランダム・ベンチマークで検証した場合でも)充分ではないだろう。つまりゲートが同時に動作する大型デバイスでの結果を見る必要がある(サイクルベンチマーク[70]などの高度な技術によって検証される)。



    FTQCの道を進むならば、誤り訂正のアプローチが原理的にだけでなく、実際のデバイスに存在するエラーに対し、どのように機能するかを明確に説明できる必要がある。量子ハードウェアはスケールアップが必要だが、古典制御ハードウェアも同様である。

    さらに、従来の回路モデルコミュニティも、自分たちだけのゲームではないことを理解する必要があるだろう。量子アニーリングなどの発見的なアプローチにも大きな勢いがある。アナログの量子シミュレーションは、物理学の専門的なアプリケーションを除けば、事実上まだ未開拓な分野だ。単純な「少数量子ビット」デバイスは、量子インターネットに新しい応用をもたらすことができるだろう。おそらく最も破壊的(良い意味で)なのは、FBQCのような新しい誤り訂正に着想を得たアプローチで、従来のパラダイムを超えて考えることができれば、達成できるものが何か、示すことができるだろう。



    量子の未来は明るいだろう。しかし依然として不確実性に満ちている。




    【 2022年を期待しよう 】


    IBM – 127Qは古典を超える?

    Google – 'surface code'が怒りの波紋を広げるか?

    Rigetti – 英国で開発された新しいコンピュータのスペックは?

    Zuchongzhi+ – 中国が誤り訂正とフォールトトレラントをリードするのか?

    OriginQ – 中国の大型超伝導量子ビットデバイスがクラウドに乗るのか?

    OQC – 新しい8Qクラウドプロセッサの性能は?

    IonQ – 現在のイッテルビウムプロセッサが達成するQVは?また第三世代バリウムの初期性能に注目!

    AQT – 世界最小のQCが次に目指すものは?

    Honeywell – 汎用ゲートセットの誤り訂正デモに注目!

    Universal – 強磁場チップ搭載の忠実度に注目!

    Oxford Ionics – 近接場マイクロ波イオントラップ型デバイスは初参戦するか?

    PsiQ – 彼らが販売すると約束したエンタングルメント・ソースについて、詳細な発表はあるだろうか?

    QuiX – 20×20モードのデバイス発売に期待!またパフォーマンスは?

    Xanadu – 24×12のモードデバイスがクラウド化、モードメトリクスバトル勃発か?

    Jiuzhang+ – USTCの専門家がどのようなフォトニクス・プラットフォームを好むか、それが大事なのでは?

    SEEQC – そのSFQの技術を実際に見ることができるのはいつになるだろうか?

    Neutral atoms – 原子シミュレータやゲートモデルデバイスが中性原子クラウドを支配するのか?

    Silicon spin – 真のマルチ量子ビット・アレイへの進展はあるのだろうか?

    Diamond – FQQCのユニークなアプリケーションの進展はあるのでしょうか?

    Cat qubits – Alice & Bobは、ネコを議題とし始めるのだろうか?AWSの最初のハードウェアの統計が見られるか?QCIの豪華なチームから猫が登場するのだろうか?

    Topological qubits – 2020/21年の挫折を経て、再び物語を前に進めることができるのか。

    Innovation – EeroQ社、Archer's社、C12社などの新興企業による量子ビット制御ロジックのデモに注目!

    ・EU QT Flagship – Horizon Europeプロジェクトの次ラウンドでは、どのような勝者が生まれるのか?

    UK NQCC – 国立量子コンピュータセンターがいよいよ開所する。このセンターが何をサポートするかは、より広い範囲での進歩のバロメーターとなるだろう。

    US NQI – NSFとDOEのナショナル・ラボ・センターから、どのような新しい進歩が生まれるだろうか。

    CEA-Leti – この大きなスキルハブが、シリコンスピン量子ビットの旅を加速させるきっかけとなるだろうか。

    QuTech – Quantum Inspireに搭載される新型プロセッサは?

    China – イオントラップや中性原子系での「キャッチアップ」デモも見られるのか?

    Fidelity – 99.9%の2Qゲート忠実度のラインを納得できるほどに必要なものは何か?




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