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コラム:量子テクノロジーに関するベンチャーキャピタルの動向 ① 量子業界の景観

Quantum Business Magazine 10 months ago



By Maria Lepskaya (Runa Capital), Igor Kotua (Runa Capital) and Ivan Khrapach (Russian Quantum Center)

本記事は以前一部がTechCrunchに掲載されました。こちらは全編の完全版です。


まえがき


「量子計算に対する産業界の熱狂。非現実的な期待を煽り、崩壊するであろうバブルを生み出し、いよいよ制御不能に陥りつつあります。しかしここではバブルの崩壊さえ変革のきっかけになるのです。多くの投資家は大きな損失を被ることになる。それでも一部の投資家は生き残り、新たな量子世界への道は開けていくでしょう。」

量子暗号のパイオニアであり、オックスフォード大学数学研究所の量子物理学教授 Artur Ekert氏は言った。


ロックダウンされた量子の誇大広告


2021年は、狂騒曲が鳴り響くなか終わろうとしている(*2021年年末に書かれている)。

今年に入ってから、私たちの地球は、自由とロックダウンの間を行ったり来たりしていたのを覚えてるだろうか?幸い自由が先行してるけれど。このことは、誰にとっても「重ね合わせの概念」を理解する大きなチャンスであるのかもしれない。大げさに聞こえるかもしれないこの言葉は、簡単に言うと、2つの状態に同時に在ることを意味している。


なかなか理解されないが、「重ね合わせ」は量子の世界では自然で当たり前である。皮肉にも現在の量子市場は、この性質を量子物理学から受け継いでいるようだ。量子市場に誇大広告はないのか?と話題になり尋ねられる。そう、その答えは、イエスとノーの重ね合わせ。


年初には、量子力学業界にとって2021年が特別なものになるかどうか明らかではなかった。しかし、3月にはIonQがSPAC上場の計画を発表し、量子コンピューティングのピュア企業として初のIPOとなった。もちろんこの業界への注目度は高まり、夏の終わりには、量子関係へのVC投資額が2020年通年の同額を上回ることに。またこの時期は、世界各地でCovitの規制が緩和されたことが重なり、まるで誰かが、ついに量子のロックダウンに終止符を打ったようだった。


量子産業へのVC投資は増える一方であることは間違いない。しかしそれは、本当の技術的ブレークスルーなのか、それともうまく演出されたFOMO(*特に情報や体験から取り残されることの恐怖)に過ぎないのだろうか?一緒に考えてみよう。



量子界の景観


コンピューティング


量子コンピュータは1980-1990年代に始まった。Paul Benioff, Yuri Manin, Charles Bennett, Richard Feynman, David Deutsch, Peter Shor and Seth Lloydといった物理学者らが、量子マシンに関する最初のアイデアを記述し、提案してからのことだ。とはいえ、本格的な進歩の兆しが見えたのはわずかここ20年のことである。現在は、量子コンピューティング(ハードウェア・ソフトウェア)、センシング、通信、量子関連スタートアップによるエコシステムと、大きく広がっている。





量子コンピュータは、今まさにエコシステムの中で最もホットな話題を提供している。その理由は、あなたがMicrosoftやAppleの初期投資家であったことを想像してみるとすぐに理解するだろう。それにしても量子コンピュータは何が凄いのだろうか?量子物理学のおかげで、量子マシンは、古典的なコンピューティングの複雑さをHackし、従来のデバイスでは何千年もかかる問題に取り組むことができそうなのだ。


量子コンピュータを構成する量子ビットの候補(*なにを量子ビットとして使うか)は、物理系には数多く存在する。超伝導量子ビットは、GoogleやIBMなどの大手企業が多額の投資を行っていることから有力視されている。要は、この量子ビットは、チップ上にプリントされたマクロな回路で、絶対零度(-273.15℃)に近い極低温に冷却されると量子化が実現される。自由に設計可能であり、トラップも不要だが、環境との不要な相互作用に悩まされる。


その後研究は他の候補も進み、イオントラップや冷却原子という量子コンピューティングのスタートアップ企業が誕生した。いずれも100年以上前から量子的な性質を持つことが知られている「微小な物体」である。当然量子プロセッサーに向いているだろう。これらは超高真空に置かれて、高度なレーザーで個別に制御されるべきものになる。


光子や電子のような他の自然量子粒子も、量子ビットとして良い候補である。光子は、導波路の中で、室温で動作する量子フォトニックコンピュータの飛行量子ビットとして利用される。電子のスピンは、量子ドットと呼ばれる半導体デバイスで操作可能だ。このデバイスは、ノートPCのプロセッサと同じように、チップ上にプリントすることができる。ただし量子ドットは極低温で使用する必要はある。このどちらの技術もキャッチアップされつつあり、注目が必要だろう。


ここまでハードウェアの話をしてきたが、VCにとっては少し奇妙かもしれない。では、ソフトウェアはどうなのだろう?

どんなハードウェアにもソフトウェアが必要で、それは量子の世界も例外ではない。ビットコインの採掘を高速化するために、誰かが量子ソフトウェアを書かなければいけない。Zapata Computing社の創業者であり、トロント大学教授のAlan Aspuru-Guzik氏はこう語る。「量子コンピュータのアルゴリズム開発は急速に進んでいます。近い将来、ハードウェアの急速な進歩と相まって、今後2,3年でしょうか、その間にエキサイティングな展開が見られるでしょう」と。今のところは、まだ実世界への応用を模索するだけの高価なおもちゃと言われてもしかたがない。量子ソフトウェア会社が独立し、すでに市場に出てはいるが、ハードウェアの成熟とともに飛躍するのはこれからだ。


「合成量子システム(synthetic quantum systems)が発揮する計算能力を正しく評価するにはまた時間がかかるでしょう。ここ数年注目されてきたNISQと呼ばれるコンピューティング・パラダイムは、デジタルゲートの形式を、まだ大規模な誤り耐性を実装できていないシステム(超伝導やイオントラップ)に適用しています。一方で、量子構成要素間の相互作用(数学的にはハミルトニアン演算子で表される)の精密な制御に焦点をあてた、よりハードウェア寄りのアプローチが、新しいコンピューティングパラダイムを導くと確信しています。そうです、「量子シミュレーター」は、基礎物理学の分野において、すでにスーパーコンピュータの能力をはるかに超えた計算を実現しているのです。ハードとソフトの相互作用によって、この分野が大きく発展し、この新しい力の恩恵を受けるアプリケーションが広がっていくことを期待しています。」

と、Quantonation社のマネージングパートナーであるChristophe Zurczak氏は述べている。



通信とセンシング


量子ソリューションと別の側には、量子通信がある。これは万能な量子計算のための「解毒剤」で、従来の暗号を破るものだ。私たちは秘密を持っており、量子通信はポスト量子時代にその秘密を守ることを目的としている。量子コンピュータとは違い、量子通信はすでに効率性を示していて、ID Quantique社のように市場をリードする企業が出ている。民間投資はここからはじまった。では何故、量子暗号は早くから始まったのだろうか?


多くの量子暗号プロトコルは、実現が難しい、いわゆる量子もつれを必ずしも発生させる必要がない。また、量子通信は、量子技術の時代より前に誕生したフォトニクス技術の成果を利用している。


早期の成功ながら量子通信は、新興産業として注目するべきで、それは汎用量子コンピュータが実現すれば、市場が変化するからである。重要なユースケースの1つは、量子コンピューティングにおけるモジュール間のリンクだ。すべての量子ハードウェアには、スケーリングの問題があり、異なる処理ユニットを結合する必要があるが、その実現方法が量子通信モジュールになるかもしれない。


最後に量子センシングだが、これは他とは異なり、コンピューティングを中心とするものではない。量子センサーは、電磁場、温度、圧力などを精密に測定することができる小型の装置である。原子レベルでの磁性体の分析(Qnami)、宇宙ナビゲーション、バイオマーカーの検出(QDTI)から、スマートフォンの手ぶれ補正まで、これらのセンサーの用途は多岐にわたっている。量子の活躍にご期待!(*本文は「量子で自撮り」!)


紛れもなく、今そこには(量子界隈には)多くのカテゴリと名の通ったアプリケーションが存在している。しかしあらゆるディープテックのベンチャーには、プロトタイプの段階を通過できないというリスクがあるだろう。時には時期早々であるという理由で。核融合を覚えているだろうか?20世紀、各国政府はこの技術に多くの資金と希望をつぎ込んだが、真の進歩が見られるようになってきたのは、つい最近のことである。では、量子技術に投資する時期がきたとは、どのように判断すればいいのだろうか?


(*訳者注)


【②に続く】



※参考


◆Artur Ekert氏

https://scholar.google.com/citations?user=V7mEUroAAAAJ&hl=en


◆Zapata Computing

https://www.zapatacomputing.com/


◆Quantonation

https://www.quantonation.com/


◆Qnami

https://qnami.ch/


◆QDTI

https://qdti.com/


◆real progress(核融合に関する進歩)

https://techcrunch.com/2021/11/05/helion-series-e/



(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report

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