Quantum Business Magazine

レビュー:Quantum Australia 2022 Conference

Quantum Business Magazine 8 months ago


By Andre Saraiva, UNSW(ニューサウスウェールズ大学)


この度オーストラリアでは、COVID関連の規制が解除されたので、量子起業家、科学者、政府・国防関係者、VCなどが、シドニー湾に面したドルトンハウスに、現地とオンラインの両方で集まることができました。ほとんどの人が2年ぶりの参加となりました。この2年間、量子業界にとっては大きな変革期であり、各社ともに成功事例や次の10年に向けて、展望を熱く語る機会となりました。


シドニー量子アカデミーを中心とした主催者側は、オーストラリアが量子技術において世界でも重要な国であるとして、政府関係者および、Google、IBM、Microsoftといったグローバル企業のトップを集めました。プラチナスポンサーとなったXanaduの他、PsiQuantum、Q-CTRL、Alpine Quantum Technologies、Silicon Quantum Computing、Quintessence Labs、Quantum Brillianceなど、この分野のスタートアップが勢ぞろいです。


では、その3日間行われたカンファレンスのハイライトをご紹介します。


1日目:

Peter Turner (CEO of Sydney Quantum Academy), Bernie Hobbs (celebrity science communicator and event MC)、Alister Henskens(ニューサウスウェールズ州科学・イノベーション・技術担当大臣)、パネルディスカッションを中心に、数名の基調講演で構成された1日がスタートしました。


「Quantum State of the Nation(量子関する国家の現状)」と題された最初のパネルでは、オーストラリアのエコシステムについて、そのエキサイティングな成果をパネリストがレビュー。オーストラリアの世界での位置づけを、一般から提起された幾つかの問題を含めて議論されました。保護主義的な措置、輸出規制と量子ビジネスにおけるその影響、大学間での知財ルールの不均質に関する懸念などなど。


続いては、オーストラリアのチーフサイエンティストで、量子イノベーションのベテランであるCathy Foley博士(博士は鉱山用の高温超電導を用いたセンサーを発明・商品化した)による基調講演が。彼女は、オーストラリアが量子コンピューティングとネットワークの全レイヤーに強い一方、焦点が定まっていないため、投資の希薄化を招いている、という二律背反を抱えているのでは?と指摘しました。


コーヒーブレイクをはさんで、次には、量子ソフトウェアの理論家が集まり、最もホットなトピックの一つが議論されました。今回の会議で、初めて明確なシナリオの転換が確認されました。NISQアプリケーションには重点がおかれず、フォールトトレラントに関する量子コンピュータに論調が集まったのです。このディスカッションでは、いくつかの例を挙げながら、量子コンピューティング(化学を含む)の真に関連するアプリケーションのすべては、Shorのアルゴルズムが設定した条件と同等のものでなければならないと訴えていました。


Amazon Web Services(AWS)のディレクター、Simone Severini氏は、Amazon全般とオーストラリアとの関係が続いていることを強調し、量子関係としてAWS Braketにおいてすでに実を結んでいることを強調しました。


量子センシングの話題では、オーストラリア国立大学のJohn Close教授が、とても興味深い話しを披露しました。センシングにおける量子の優位性はどこにあるのか?そして量子力学は単なる付随のものであり、必ずしも技術的な優位性を持つものではないという内容です。量子センシングは、量子的な優位性を実現している最初のアプリケーションの1つと考えられると。例えば、SQUID磁束計は何十年も前から現実のものです。そして新たに追及されるアプリケーションでは、デバイスの機能だけでなく、コヒーレンスやエンタングルメントを利用して、無相関の繰り返し測定におけるショットノイズの限界を打ち破るために量子力学は利用されようとしているのだと。一般に、量子センサーは、古典的なセンサーと連携して、精度、ドリフト、ダイナミックレンジなどの点で互いに補完しあうのだという点で、意見の一致をみました。


「量子の未来に向けたビジネスの準備」とタイトルされたパネルでは、企業によって量子技術の採用を早めるか遅らせるかの判断は様々であることが示されました。大手EYやKPMGなど、サイバーセキュリティを含むプロフェッショナルサービスを提供する企業は、高いセキュリティレベルを必要とする企業の間で、オーストラリアでの量子対応のキャンペーンをはじめています。例として、暗号化されたデータを収集している組織では、Shorのアルゴリズムを実行できる未来の量子コンピュータに基づいて復号化されることを想定している、と紹介されました。他には、ベテランのDavid Garvin氏(元Rigetti、QxBranch、金融サービス部門)が代表を務める日本の大手NECなどは、量子コンピュータの応用可能性を誇張しない慎重な立場をとっています。別の面では、Zamata ComputingのPeter Johnson氏は、量子的な優位性を数学的な証明を待つのではなく、実際にアルゴリズムを試してみることが大事であると提唱しました。


同じパネルで、XanaduのCEO、Christian Weedbrook氏は、同社の計画について興味深い情報を発表しました。同社の焦点をPennyLaneソフトウェアから、フォールトトレラント量子コンピューティングに移したというのです。Xanaduは、ボソニック・フォトン・サンプリングとプログラマブル・フォトニック回路のNISQ応用を目指していましたが、より壮大な長期ロードマップに向けてスタートしました。これは設立5年であった昨年、38ページに及ぶ設計図を発表したことに続くものです。量子コンピューティングのあらゆる応用に対応するためであるが、Weedbrookは、事業戦略としては化学応用に焦点を当て続けると言っています。


初日最後のパートでは、数百万単位の量子ビットのスケーリングについてとなりました。まず、MicrosoftのDavid Reilly氏が、数百万個の量子ビットの同時動作、従来のコントローラとのインターフェイス、熱負荷、配線の困難さなどの現実的な課題について、話の前提を一般の人々に説明しました。そして彼は、マルチチップ集積、変換形質導入、マイクロ波信号のための限られたスペースで、半導体とRF制御を使用しなければ、量子コンピューティングのアーキテクチャは拡張できないと言い切ったのです。


それを受けて、スケーラビリティを追求する主要な量子ビットプラットフォームの専門家によるパネルディスカッションが行われ、「100万量子ビットへの競争」について議論されました。科学界の伝説的存在であり、現在はAlpine Quantum Technologies社で起業しているRainer Blatt氏は、全対全接続により、誤り訂正のオーバーヘッドが低くなる見込みがあることを指摘します。彼が言うには、イオントラップ技術は、1,000量子ビットまでスケールアップの想像は可能だが、100万量子ビットのアーキテクチャを想像することはできないと。その一方で、Andrew Dzurak教授は、プロセッサが大きくなればなるほど、物理的な量子ビットのエラーレートを改善することは難しくなり、関連する量子アプリケーションでは10億量子ビット近くが必要である、と指摘しました。


2日目:

この日は嬉しい驚きではじまりました。IBMのJay Gambetta氏が、オーストラリアにやってきて、直接講演をすることになったのです。そしてその内容は、ハードウェアの進歩よりも、ユーザーや開発者のグローバルなコミュニティを作るための戦略に重点を置いたものでした。


続いて、PsiQuantum社のLead Quantum System ArchitectであるDylan Saunders氏による講演が行われました。彼は、Fusion-Based Quantum Computationのアイデアを実現した一連の論文の意義と、それが光量子ビット以外の技術にも道を開く可能性があることをアピール。また、「Q1」と呼ばれるコントローラやセンサーを含む全体的なアーキテクチャについて解説。そして最後には、GlobalFoundries社との協業の成果として、単一光子検出システムの大幅な技術改良につながったことを紹介しました。


Google社のエンジニアリングVPであるHartmut Neven氏は、量子計算において論理的量子ビットがいかにエラーを指数関数的に抑制するか、また耐障害性を求めるすべての企業が従うべき一般的ロードマップについての分かりやすい説明を含めて、驚くほど技術的な内容に焦点を当てたプレゼンテーションを行いました。そして、同社のハードウェアシステムにおけるエラーによる消費リソースについて解説。講演の後半では、ソフトウェアの応用に焦点をあて、例としては、天体や人工衛星から送られてくる潜在的にもつれた光子の解析といった、量子データにおける量子機械学習の可能性を説明しました。


その後、「量子テクノロジーにおける責任あるイノベーション」と題したパネルディスカッションが行われ、ここでは量子コンピュータのビジネスと、アプリケーションに関して重要な問題が提起されます。例えば、EQUSのTera Roberson氏は、「ブラックボックス化した意思決定」における機械学習の利用や、人々の生活を変えるかもしれない意思決定の設定において、説明不可能な基準を作り出すことについて重要な指摘を行いました。それは、AIアプリケーションが直面している問題を悪化させる可能性があり、量子計算能力によってさらに悪いほうに向かっていく可能性があるということです。NSWのチーフデータサイエンティストであるIan Oppermann氏は、AIを導入する上で重要な要素として、一般市民を特定するために利用するなど、国民が良い政策から得られるであろう利益とバランスを取ることの必要性を訴えました。最も直接的で論理的な問題提起をしていたのは、節度ある「量子的な主張」を提案するテキサス大学のScott Aaronson氏でしょう。彼は、ピアレビューや科学的厳密性といった学術的なスタンスから、誇大広告や誇張された主張に、その気になってしまう人々の動きの速さに愕然としていると言いました。


量子ネットワークと、オーストラリア全国ネットワークの今後の見通しについて、有識者による分析のパネルへと続きます。Vikram Sharma氏は、2008年からQuintessence Labs社を率いている量子力学業界のベテランであり、量子鍵配送と真の乱数生成の課題と可能性について、非常に確かな理解を提示してくれました。話題に上がったのは、多国間ネットワークが地政学的にどのような意味を持つのか、また、低軌道衛星を使えば、長寿命の量子メモリに保存された量子情報を高速に伝送することができ、悪意ある攻撃などが行われる可能性のある地域を横断するケーブルが必要なくなるのではないか、などのテーマです。UTSのPeter Rohde氏は、量子ネットワークは通信の手段であるだけでなく、異なる場所にある量子コンピュータを統合できる可能性があることも強調しています。量子もつれを使用することで、システムの計算能力を指数関数的に向上させることができるため、その能力を倍増させることができるでしょうと。


Q-CTRLのMichel Biercuk氏は、自社では、量子ビットの品質を向上させ、一般的には量子制御のためのスケーラブルな戦略を、ハードウェアメーカーに準備させることに成功したことを示しました。


続いて、Silicon Quantum Computing社のMichelle Simmons氏が、量子コンピュータのオーストラリアにおける未来への展望を語りました。彼女は、2018年にオーストラリアン・オブ・ザ・イヤーに選出されるなど、オーストラリアの量子エコシステムを語る上で重要な存在です。講演では、シリコンの単一ドーパント(*半導体にドーピングされる不純物)を用いた、スピン量子ビットの作成における原子スケールでの位置決め技術の進歩を紹介しました。


最後に、Cicada InnovationsのCEOであるSally-Ann Williams氏が、スタートアップの現状に関する2つのパネルの座長を務めました。1回目は、科学者とエンジニアで構成されたセッションです。技術主導のイノベーションを、ユーザー主導であるビジネスと結びつけるために、必要な視点の転換についての議論されました。2回目は、Main Sequence、Allectus/ICM、OpenOceanのベンチャーキャピタルと、Tech Central(Quantum Terminalを含むいくつかのハイテク関連施設を束ねるシドニーの地区)のエグゼクティブディレクターが参加しました。ここでは、投資家の量子イノベーションに対する意欲、ディープテックへの資金提供に関する課題、オーストラリアの量子エコシステムにおけるベンチャーキャピタルの成長について議論されました。彼らの懸念は2点に集約されます。大学との知的財産の取り決めの難しさ(高価値の知的財産権の商業化に北米は多くの経験も持っているが。。。)、そして、投資家向けの論文を作成し、投資家のために財務的な損益を正確に把握する経験がない(たとえそれが収益ではなく、評価に基づくとしても)、ということです。


最終日は、対面式ではなく、キャリアフェア(*企業説明・就職説明)で構成されていました。パネルディスカッションでは、量子業界の人材育成における課題が話題となります。異なる教育を受けた専門家のマッチング、エンジニアやコンピュータ科学者のスキルアップ、多様性の問題、この分野以外の博士号取得者の役割などが話題となりました。その後全てのスポンサーが、自社の職場や、組織における量子専門家の役割について説明する場が設けられました。この日は、ポスターセッションで終わりました。この会議は分野のリーダーに強く焦点を当て、次の世代の人々が自分の仕事や見解を発表する場があまりなかったことは残念に思いました。


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※レビュアー紹介

Saraiva博士は、10年以上にわたり、シリコンスピン量子計算や、その他の量子技術における諸問題に、理論的解決策を提供してきました。ニューサウスウェールズ大学(UNSW)で、MOSシリコン量子ドットの研究および商業志向のプロジェクトに取り組んでいます。


(*訳者追記)

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