IBM Quantum SummitにおけるIBMの7つの発表

IBMは、恒例の「IBM Quantum Summit」を開催し、同社の量子コンピューティングに関する状況と計画について、7つの重要な発表を行った。報道では、127量子ビットのEagleプロセッサに関して盛んにおこなわれ、その他の発表の多くは無視されているが、中にはEagleそのものよりも重要なものがある。 ここでは、彼らが言及した主要事項を紹介する。



◆127 Qubit Eagle Processor

IBMは、2020年9月からこのプロセッサーをロードマップとして公開しており、今年に入ってからも頻繁に言及している。この業界をフォローしている人にとって特に驚きはない。The IBM Eagleのリリースは、私が「思春期サイズ」(75量子ビットより大きい)と呼ぶ量子コンピュータのうち、今後数カ月のうちに導入されるだろう、幾つかのうち最初のものであることを指摘しておきたい。このサイズのマシンの短期的なロードマップを議論している企業には、Rigetti、ColdQuanta、Atom Computing、Pasqalなどがあり、他にもいくつかあるだろう。このサイズの大きな特徴は、量子ビットを1つ追加するたびに必要な計算リソースが2倍になるため、従来のコンピュータではその動作をシミュレーションできなくなることだ。つまりこのサイズになると、古典的にシミュレーションするのは難解だと言える。


このマシンには、IBMが以前のFalconプロセッサーに搭載した、ヘビーヘキサゴン形状、量子ビットを微調整するレーザーアニーリング、ケーブル数を減少させるマルチプレックス読み出し、接続のルーティングを最適化する3Dパッケージングなど、すべてのイノベーションが含まれている。

2022年に予定されている次世代のOsprey 433量子ビットマシンは、これらの革新的な技術をすべて備えており、新しいフレックスケーブルによるスケーラブルなI/O、改良された制御電子機器、IBM System Twoと呼ばれる新しいパッケージが追加される。

(以下のレポート参照)


このマシンは、まだ同社の顧客には提供されていないが、12月にはプレミアム顧客に提供が開始される予定だ。すでに同社のWebページでも「IBM_Washington」として掲載されているが、量子ボリュームなどの主要なパラメータはまだ公開されていない。現状、可能な限り最高の量子ビット品質を実現するために、マシンのキャリブレーションとチューニングに取り組んでいるものと考えられる。しかし、量子ビットの数を増やすことはとても困難なことで、時に全体の量子ビット品質レベルを低下させてしまう。例えば、27個の量子ビットを搭載したIBMQ_Falconは128の量子ボリュームを示しているが、65個の量子ビットを搭載したIBMQ_Brooklynは32の量子ボリュームしか示していない。



◆IBM Quantum System Two

驚きだった点の一つは、IBMが「IBM Quantum System Two」と呼ばれる新しい物理的なフォームファクターとパッケージ採用を発表したことだ。私たちの予想では、2019年に発表されたばかりのIBM System Oneのフォームファクターで、2023年に予定されている1121量子ビットのCondorまで十分に対応できると考えていた。しかしEagleは、IBM System Oneを使用する最後の世代とし、今後の433 Osprey と1121 Condorは、この新しいIBM Quantum System Twoの使用を決定した。IBMは、希釈用冷凍機メーカーのBluefors社と提携して開発を進めており、この採用は、モジュール性を持たせることが主な動機となっている。検討するコンセプトのひとつに、複数の量子コンピューターを連結して搭載する将来の量子データセンターがある。IBM Quantum System Twoのフォームファクタは、六角形に配置されており、これにより複数の量子コンピュータを隣り合わせに配置することが非常に容易になるかもしれない。また、新世代のスケーラブルな量子ビット制御電子機器や、より高密度な低温コンポーネントやケーブルも提供する。



◆Improved Qubit Coherence Times and Gate Fidelities

前述したように、量子ビットの数を増やすだけでは十分ではない。IBMは、量子ビットの品質向上にも取り組んでいる。現在、IBMQ_KolkataやIBMQ_Montrealのような最高のマシンでは、T1コヒーレンス時間が100マイクロ秒、平均CNOTゲートエラーが約0.01となっている。今回の会議では、最近の実験に関してコヒーレンス時間を300~600マイクロ秒に、CNOTゲートエラーを0.001に向上させたと説明した。これらは非常に重要な改善であるが、この優れた技術が127量子ビットのIBM_Washingtonマシンに組み込まれているかどうかはわからない。数週間後には、このマシンの品質指標が発表されるので、それを見ればわかるだろう。長期的には、2024年にCondorクラスのマシンで、コヒーレンス時間を約1ミリ秒(1000マイクロ秒)、ゲートエラーレベルを約0.0001にすることを目指している。



◆Improved Speed

IBMは回路の実行速度を重視しており、そのことが彼らにとって重要な焦点であることを改めて強調した。最近では、CLOPS(Circuit Layer Operations per Second)という指標や、量子コンピュータと古典コンピュータのインターフェースを効率化するQiskit Runtimeについての記事で、この分野での活動の多くを紹介していた。また、現在稼働しているすべてのマシンへのQiskit Runtimeの実装を完了したと発表した。これらの記事については以下を参照のこと。


https://quantumcomputingreport.com/ibm-introduces-another-new-quantum-performance-called-clops-to-measure-execution-speed/

https://quantumcomputingreport.com/ibm-releases-qiskit-runtime-for-private-beta/



◆Circuit Knitting and Dynamic Circuits

IBMは、従来のコンピュータと量子コンピュータの組み合わせを活用して、コンピュータの能力を相乗的に向上させる方法も探究している。「Circuit Knitting」と呼ばれる一つの手法は、大きな量子回路を分割し、それぞれを別々に実行した後、従来のコンピュータ上でそれらを組み合わせて答えを導き出すというものだ。すべての量子回路に当てはまるわけではないが、この方法を使えば、プログラムを実行するのに必要な量子ビット数やレベルを減らすことができ、より大きな問題をより小さなマシンに収めることができるかもしれない。また、複数の量子計算を実行し、それらを従来のコンピュータで合成することで、エラーを軽減することができ、より正確な結果を得ることが可能となる。これらの技術はいずれも、実行時間が長くなる代わりに、より大きなスケールや精度を提供するというトレードオフの関係にある。これが、前節で述べた速度の向上が重要である理由のひとつだ。


IBMが2022年に計画しているもうひとつのイノベーションは、「動的回路」と呼ばれるている。ハネウェル社が2020年に発表した「中間回路測定」と呼ばれる機能と同様のもので、量子プログラムは個々の量子ビットを測定し、測定結果に基づいてコード内で分岐させることができる。動的回路では、分岐機能のほかに量子ビットの再利用も可能だ。量子ビットを測定後リセットすることで、後から別の計算に使用することができ、この機能により、計算に必要な量子ビットの数を減らすことができる。IBMは、この技術を使って、わずか5量子ビットでH2O分子をシミュレートできたと述べた。



◆Serverless Computing and Integration with the IBM Cloud

これまでIBM Quantum Cloudは、標準のIBM Cloudとは別物だったが、2022年にはこれが変更される。これらは統合され、標準的なIBMクラウドの顧客が、IBM Quantum Cloudにアクセスできるようになる。1月に限定ベータ版を開始し、3月にフルベータ版、2022年夏に一般提供を開始する予定だ。IBMは、フリクションレス・コンピューティングという目標を掲げており、ユーザーができるだけ簡単にその機能を利用できるようにするための措置を講じている。従量課金で使用する顧客に対し、使用するシステムの設定を気にすることなく機能を利用でき、シームレスなスケーリングを提供しようとしている。



◆More Systems Installed Externally

今年初め、IBMは米国以外では初めてとなる2つのシステムをドイツと日本に設置した。今回のQuantum Summitでは、韓国・ソウルの延世大学にもシステムを導入することが発表された。さらに、IBMはIBM Quantum System OneをCleveland Clinicに設置する予定だが、将来的にはIBM Quantum System Twoベースのマシンを設置することもカンファレンスで言及した。



◆Summary

IBMの量子戦略の概要は、2つの数式で表すことができるだろう。


「Performance = Scale + Quality + Speed」

「Value = Performance + Capabilities + Frictionless」


つまり、IBMは量子化の取り組みを継続的に改善するために、さまざまな側面に取り組んでいることを理解することが重要だ。

IBMフェローで量子担当副社長のジェイ・ガンベッタのコメントにはこうある、「IBMがロードマップを達成し続ける限り、エンドユーザーがCondorクラスのマシンで2023年までに量子の優位性を獲得するのを見ることができるだろう」と。

IBM Quantum Summitと最近の発表については、①127量子ビットのEagleプロセッサを発表したプレスリリース、②EagleとIBM Quantum System Twoに関するブログ記事、③Quantum Serverlessに関する2つ目のブログ記事、④IBMと延世大学との共同研究を発表したプレスリリースなどを参照。


https://newsroom.ibm.com/2021-11-16-IBM-Unveils-Breakthrough-127-Qubit-Quantum-Processor

https://research.ibm.com/blog/127-qubit-quantum-processor-eagle

https://research.ibm.com/blog/quantum-serverless-programming?preview=true&token=eyJhbGciOiJIUzI1NiIsInR5cCI6IkpXVCJ9.eyJpZCI6NSwiaWF0IjoxNjM3MDE1MDE0LCJleHAiOjE2MzcxMDE0MTQsInN1YiI6IjQ5MyJ9.jXznoYQ4XqMYeuYTh_rRiNPbb7TMH2K3lbh2eVwC4Jg

https://newsroom.ibm.com/2021-11-16-IBM-and-Yonsei-University-Unveil-Collaboration-to-Bring-IBM-Quantum-System-One-to-Korea


(翻訳:Hideki Hayashi)


提供:Quantum Computing Report

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「量子ビットと商業がもつれる」 米国の量子コンピュータ関連専門サイトQuantum Computing Reportから、 世界の最新の量子コンピュータニュースを日本語に翻訳してお届けします。 https://quantumcomputingreport.com/
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