コラム:歴史は繰り返さないが、しばしば韻を踏む By Carolyn Mathas

コラム:歴史は繰り返さないが、しばしば韻を踏む



「歴史は繰り返さないが、しばしば韻を踏む」


マーク・トウェインはこう言ったらしい。従来のコンピュータと、現在進化中の量子コンピュータを比較すると、確かに歴史は韻を踏むのかもしれないと思わされる。古典コンピュータ(従来のコンピュータを以下では古典コンピュータと表現)の過去70年の歴史と、現在の量子コンピューティングの可能性を並べ比べてみよう。注目すべき点としては、その基盤および実現可能な技術、起業家精神とその文化発展、そして大衆は何を求めていたか、などだろう。


この試みは、カリフォルニア州サンタクララ郡の肥沃な果樹園から始まり、クラウドで終了する。



◆トランジスタの登場

1930年代以降、電子機器を動かしてきたのは真空管だった。倉庫サイズの汎用コンピュータ「ENIAC」が代表的な例だ。電気通信分野の基礎技術に関する研究開発を行うベル研究所に在籍していたウィリアム・ショックレーは、1947年にトランジスタを発明し、コンピュータの歴史に名を残すことになる。小型で低消費電力というトランジスタの特性を生かし、現在に続く高い性能を実現して、世界に大きく貢献をすることになった。55年にショックレーは、ベル研究所を離れ、サンタクララバレーに移り、後にIntel創業者として有名となるゴードン・ムーアやジェイ・ラスト、他にもボブ・ノイス等を招いて、「ショックレー半導体研究所」を設立した。彼らが目標としたのは、高温だと故障してしまうゲルマニウムに代わり、商用価値のあるシリコントランジスタを開発することだった。


残念ながら、ショックレーの管理スタイルと折り合いが悪く、ムーア等は8人の仲間とともに、まもなく退社することになる。当時、米の企業文化では、退社は入社後数十年してからと定められていたため、後に「8人の反逆者」として知られることになり、人材流動のきっかけと呼ばれることもある。




【写真】The-Traitorous-Eight-1.png



シリコンバレー(サンタクララバレーを含む呼称)には、産業を育て育成する環境が整っていた。スタンフォード大学は企業に土地を提供し、ロシアの脅威に備え、国防費が莫大に費やされていた。1957年にロシアがスプートニク(人類初の宇宙衛星)を打ち上げたのは、米の宇宙開発にとって不意打ちとなる出来事で、翌58年に、4億ドルの予算でNASA(アメリカ航空宇宙局)が発足することになる。8人の反逆者は、新たに「フェアチャイルドセミコンダクター社」を設立し、その場所に降り立ったのである。


61年の3月には、最初の商用集積回路を発表。マイクロチップはエレクトロニクス業界に旋風を巻き起こした。フェアチャイルド社はAGC(アポロ誘導コンピュータ)にチップを提供することになる。しかし、60年代後半になると、創業時のメンバーに加え、多くの研究者や技術者は、フェアチャイルド社を離れ、新しい事業を始めた。ロバート・ノイスとゴードン・ムーア、そしてアンディ・グローブは、68年にフェアチャイルドを去り、Intel社を設立した。12人目のメンバーとなったテッド・ホフことマーシャン・エドワード・ホフ・ジュニアは、最初のマイクロプロセッサー、Intel 4004 を開発し、71年11月にリリースした。このシングルチップにより、プログラミング可能で、かつて冷蔵庫ほどの大きさだったコンピュータが指先に収まるほど小さくなった。


フェアチャイルドセミコンダクターは非常に多くの企業を生み出し、それぞれは子孫として「フェアチャイルド」と呼ばれるようになった。Endeavor Insight社のレポートによると、2014年にNASDAQまたはNYSEで取引される130を超えるシリコンバレーのハイテク企業のうち、「これらの企業の70%は、フェアチャイルドの創業者や従業員にさかのぼることができる」と伝えた。その公開数は92社で、現在、約2.1兆ドルの価値になる。(*1)


【図】Fairchildren.png



推定では、あらゆる産業のスタートアップ企業の90%が失敗すると言われており、シリコンバレーもその一端を担っているだろう。しかし、過去の果樹園の土壌に根付いたいくつかの企業は、目覚ましい成功を収めている。



◆PCの設計図

技術的に成功したもう一つの例は、IBM PC の登場で、それは当時の状況を一変させた。81年に発表されたPCは、開発者がハードやソフトを自由に追加するこができる「オープンアーキテクチャ」を採用していた。インテル社のマイクロプロセッサーと、マイクロソフト社のオペレーティング・システムを使用していたため、PCのリバース・エンジニアリングが容易であった。その後すぐにCompaq社が設立され、最高のIBM互換機メーカーの1つとなり、5万3千台のポータブルPCを出荷し、最初の一年間で、1億1100万ドルの収益を上げた。



◆量子コンピュータ

これまでの例と、量子コンピュータとの間に、どういった韻が踏まれ、またどのような違いがあるかを確認していきたい。ここでは「基盤となる実証技術」「起業家文化」「使用方法」の、3つの基準をもとに見ていこう。



◆基盤技術

まず最初に指摘すべきなのは、今日までの研究者・技術者たちが、古典的なコンピューティング技術の道を切り開いてきたことで、すでに今後の量子業界にとって、頼りにできる技術と経験を提供してくれていることだ。ノイスたちは、電子機器がまったくない世界で育ったにも関わらず、その後の足跡は驚異的と言えるだろう。


IBMのChief Quantum ExponentであるBob Sutorによると、「この映画は前に見たことがあります。ここには70年以上の古典コンピューティングの経験があり、これを量子コンピューティングで同じように繰り返す必要はありません。では最初に学んだことのうち、今回応用できるものは何でしょうか?」と述べている。


一つには、同じ目標を持つハードウェアは、古典コンピュータに限らず量子コンピュータにも様々な種類があるということだ。Sutorはこう語る。「ハードウェアの観点から見ると、IBMでも実際の量子ビットは、超伝導デバイスであったり、イオントラップデバイスであったり、フォトニックデバイスであったりします。これらの量子ビットは、多くの古典コンピューティングに囲まれています」。

「その観点からすると、量子コンピュータの制御はすべて古典的なコンピューティングです。1950年代の古典コンピュータが、新たに量子コンピュータに生まれ変わるわけではありません。 量子コンピューティングは、量子と古典の融合です。量子的なものはわずかしかありません。私たちは、古典的なコンピューティングの学習経験と技術を、純粋な量子部分を包み込むように利用しているのです」と続けている。(*2)


例えば、あるアルゴリズムを実行するときに、そのコードのほとんどは古典的なものであり、量子的なものはごくわずかでしかない。その意味で量子と古典は対比することが重要ではなく、融合や統合と言えるものであり、古典コンピュータの発展と同じに考えることはできないだろう。


もう一つの例として、ソフトウェアの開発言語をあげたい。量子コンピュータ用のプログラミング言語を作るベースとしてPythonが使用されているが。Pythonは約20年前から存在している。業界では、量子システムをプログラミングするために、新しく言語を考え出してはいない。既存のものを活用して、量子コンピュータ用のプログラムをできるだけ簡単に書けるようにしている。古典コンピュータで最初に使用された高級言語、FortranやCobolは、参考にできるようなモノは何もなく、すべてゼロから開発された。



◆起業家文化

量子技術は、時間も場所も異なっているが、これまでの古典テクノロジーに囲まれている。現在は初期段階にあるけれど、益々、起業やイノベーションといった多くの物語が生まれていくだろう。オープンでリスクを取ることの代名詞として「シリコンバレー」という言葉が使用されてきたが、今日、量子業界でも使用されている。


定年まで、30年間同じ会社にいなくてもいいというのは、初期のシリコンバレーが初めてだった。その結果として、スタートアップが成功したり失敗したり、起業家が新しくベンチャーで挑戦するのが普通になった。失敗でキャリアが台無しになることもなくなった。

また、コミュニケーションのスピードが大きく変わった。ある研究グループがブレークスルーを起こした場合、彼らは、arXivに論文を投稿し、それをツイッターでつぶやけば、数日後には世界中の人がそのことを知ることができる。半導体産業の黎明期には、このようなニュースはシリコンバレーにいないと何週間も何ヶ月もわからないものだった。シリコンバレーに半導体企業が集中していたのは、技術者や研究者が地元のバーで社交的に集まり、最新の情報(ゴシップ)を語り合っていたからだ。今でも最新情報の交換は行われているが、わざわざ地元のバーに行く必要はない。量子力学の研究者たちは、ZoomやTelegram、Clubhouseを使って最新の情報について話すことができる。このことで、地理的に位置することは、業界にとってそれほど重要ではなくなった。



◆使用方法

初期の古典コンピューティング産業と量子の大きな違いは、そこにどうアクセスするのかその方法だ。古典コンピュータは、メインフレームであれポータブルコンピュータであれ、ほとんどがオンプレミスでインストールされ使用されていた。Compuserveのような専用のタイムシェアリングサービスもいくつか存在したが、パソコンやインターネットの出現により消滅してしまった。量子コンピューターへのアクセス方法は大きく異なっている。クラウドコンピューティングの技術はこの20年間で急速に普及し、これは当初から量子マシンを利用するための、事実上基本となる使用方法だ。将来的には、量子コンピューターのサイズやメンテナンスの必要性を縮小し、個々の組織にオンプレミスで設置できるようにするという話もある。しかし、その数は、ノートPCのように数億台には到底及ばないだろう。その代わりに、クラウド上の量子コンピュータに置かれた、何億ものアプリケーションにアクセスすることになるだろう。



◆予測

古典的なコンピューティングは、どこからともなく広がったように見える巨大なソーシャルメディア産業を生み出した。


それこそが量子技術の役割なのだろうか?

それがどのようなものであれ、量子的な問題というよりは、AIの問題になると予測できる。実際には、ユーザーが、リスクに基づく難解な計算を量子技術にアクセスして使用するとは、今日のリアルタイムなやり取りではなく、ユーザーの知らない裏側で実行されることになるだろう。


しかし、開発者にとっては、初期の古典コンピューティングのような、とてもエキサイティングなものになるだろう。歴史がそのまま繰り返されることはないだろうが、しばしば韻を踏むことに注目していこう。



注)

1.TechCrunch。「最初の1兆ドルのスタートアップ」、2014年7月26日。

 https://techcrunch.com/2014/07/26/the-first-trillion-dollar-startup/?guccounter=1&guce_referrer=aHR0cHM6Ly9xdWFudHVtY29tcHV0aW5ncmVwb3J0LmNvbS8&guce_referrer_sig=AQAAAC-ffL3mhKkKzAwLGj7Vszi5u82lGSFQFWNL_FkQb4l5QiE0LIJpf-ijBPU4q-Mlg-hvbiQq0ghCTpX0AAvmm7j6IT0sJnQks3MD4ln0-S7XlGS5c-8nL7V3ONNeCmTNhuG0H1C-oj_sjpEj4HYJYpynhcPuyFaI9oft439ujFb6

 

2.プライベートな会話。


(翻訳:Hideki Hayashi)


提供:Quantum Computing Report

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