堀田量子p.43 式(3.15)は以下のようになっていて、
λ^n†=λ^n,Tr[λ^n]=0,Tr[λ^nλ^n′]=Nδnn′\hat{\lambda}_{n}^{\dagger}=\hat{\lambda}_{n}, \operatorname{Tr}\left[\hat{\lambda}_{n}\right]=0, \operatorname{Tr}\left[\hat{\lambda}_{n} \hat{\lambda}_{n^{\prime}}\right]=N \delta_{n n^{\prime}}λ^n†=λ^n,Tr[λ^n]=0,Tr[λ^nλ^n′]=Nδnn′
このようなN2−1N^2-1N2−1 個のλ^n\hat \lambda_nλ^n たちを考えるとあります。中田には天下り的な感じがしてイメージしづらかったので、行間を埋めてみようと思います。
まず、N準位系の量子系があるとします。量子力学では、物理量はエルミート演算子(またはエルミート行列)で書かれることを思い出しましょう。そして、エルミート行列HHH の定義は、Hij=Hji∗H_{ij}=H_{ji}^*Hij=Hji∗ つまりある行列の添え字を入れ替えて、複素共役をとっても同じ行列ならばエルミート行列、でした。記号的に書けばH†=HH^\dagger = HH†=H ですね。
NNN 準位系のエルミート行列はNNN 次元複素ベクトル空間におけるN×NN\times NN×N 行列です。したがって、このN×NN\times NN×N複素エルミート行列行列をすべて書き下せるような、数学的なものを考えたいわけです。
ここで、少し発想を変えます。N×NN \times NN×N エルミート行列の集合は、N2N^2N2 個の複素数からなる実ベクトル空間とみなすことができます。大事なので二回言いますが、実ベクトル空間です。なぜならば、エルミート行列H1,H2H_1, H_2H1,H2 に対して、αH1+βH2\alpha H_1 + \beta H_2αH1+βH2 (α,β∈R\alpha, \beta \in Rα,β∈R )を考えても、エルミート行列であることが容易にわかるからです。複素ベクトル空間ではないのか?と疑問がわくかもしれません。残念ながら複素ベクトル空間にはなりえません。何故ならば、エルミート行列HHHに対して、iHiHiH を考えると、(iH)†=−(iH)(iH)^\dagger = -(iH)(iH)†=−(iH) と符号が出てしまうからです。従って、αH1+βH2\alpha H_1 + \beta H_2αH1+βH2 において、α=i,β=0\alpha = i, \beta = 0α=i,β=0 とするとエルミート行列ではなくなってしまい、線形結合において閉じなくなる。従って複素ベクトル空間ではないということが分かります。結局、N×NN \times NN×Nエルミート行列の作る集合というのは、NNN 次元複素ベクトル空間の行列が作る、2N22N^22N2 次元実ベクトル空間(の部分空間)となります。
ベクトル空間において、基底は何かというのはとても大切です。この基底の線形結合でベクトル空間のベクトルはすべて表現できるからです。その基底をすべて数え上げてみましょう。さらに、内積もいれることができるので、直交基底を数え上げるということになります。
その前に、エルミート行列という制限についてはっきりさせておきましょう。N2N^2N2 個の複素数のうち、対角要素は実数だということは明らかです。さらに、対角要素から上半分(または下半分)の自由度しかないことが分かります。下半分(または上半分)はその複素共役を考えれば、自動的に埋まってしまうからです。そうすると、対角要素は実数NNN 個、上半分は、複素数N2−N2\frac{N^2 - N}{2}2N2−N 個あります。実ベクトル空間で複素数の数を数えるのは変な気分です。思い切って複素数は実数2つだと思って、実数のみ考える、とすると2倍と増えます。よってN+(N2−N)=N2N+(N^2-N) = N^2N+(N2−N)=N2 個の実数パラメータがあることになります。ここで懸命な読者は教科書にはN2−1N^2-1N2−1 となっていてあとの一個はどこに消えた? と思うかもしれません。それは、(3.15)のTr[λ^n]=0\operatorname{Tr}\left[\hat{\lambda}_{n}\right]=0Tr[λ^n]=0 という制限によって一つ消えてしまうのです。この教科書の文脈では、消えた行列は単位行列となります。
さて大体基本的な考え方はすべて出しました。次は具体的な構築について考えてみましょう。