では、答えを見てゆきましょう。
- アリスは1-1000番目までの箱についてσzを測定し、+1, -1 ... の列を得ました。このあとボブはアリスからメールを受け取り、それを受けて、σzを測定しました。ボブはどんな結果を得るでしょうか。
アリスがσzを測定して1を出した箱について、ボブが測定をすると必ず-1がでます。-1ならば1です。ということは、アリスが測定した後、ボブの波動関数については、収縮が起こっている、と考えられるように見えます。
2.アリスは、1001-2000番目までの箱について、σzを測定しました。ボブはアリスからメールを受け取り、アリスは測定が終わったからボブに測定をお願いしました。実は、ボブはこのとき、すでに1001-2000番目の箱について測定を終えてました。この二人の結果を突き合わせるとどうなるでしょうか。
アリスがσz=1を得た箱については、ボブはσz=-1を得ています。逆にアリスがσz=-1を得た箱については、ボブはσz=1を得ています。ここで1. との違いですが、アリスは収縮した波動関数をそれとは知らずに測定して、結果を得ている、ということです。するとアリスとボブが測定した、だからσzに相関があるのだ、という主張が間違っていることを示します。つまり、1. とは逆で、測定した瞬間に収縮が起こる、という因果関係の議論が不毛であることを示してます。
3.アリスは2001-10000番目までσzを測定しました。アリスは、自分がσz=1を得た箱の番号を伝え、ボブはその時点では2001-10000番目までの箱は測定してませんでした。ボブは、アリスがσz=1を得た箱だけ集めて、それらの箱の量子状態を測定しました。この箱の量子状態はどんな状態でしょうか。
アリスから、σz=1を得た箱の情報を持っているため、ボブは測定せずともσz=-1を得ることが分かっています。つまり、これらの箱のσzをあえて、ボブが測定すると-1が得られるだけです。なので、伝えられた番号の箱のみを集めた場合、それらは同一の量子状態を持っていて、それは純粋状態の密度行列だった、という結果が出てきます。
4.ボブとアリスの間の通信に異常が発生し、アリスとボブはメール、電話あらゆる通信手段を失いました。ボブは、10001-20000番目以降の箱の測定しました。もしかしたらアリスは測定したかどうかがわかるか?それを用いて通信できないか?ボブは測定によって、10001番目から20000番目までの箱の量子状態を決めました。どんな量子状態が得られたでしょうか。
ボブは測定によってランダムにσz=1, -1を得ます。そして、混合状態の密度行列である、という結果を得ます。何も情報のやり取りはできません。もし、アリスが約束を破ってσxを測定していたらどうなるでしょうか。その場合もボブが得るのはランダムなσz=1, -1です。もし、アリスとボブが両方とも約束を破ってσxを測定したらどうなるでしょうか。それでもどちらもランダムにσx=1, -1を得ます。ただし、σzの場合と同じようにアリスがσx=1 ならボブはσx=-1、アリスがσx=-1ならボブはσx=1です。しかしこの事実は二人の間の通信が回復した後になって初めてわかります。したがって通信外回復しない限り、情報のやりとりが一切できません。
4.が示唆的です。通信が途絶えるとアリスとボブは独立に動いているように見えます。実験を繰り返し、なんとか量子的な測定で通信経路を作ろうとするわけですが、失敗してしまいます。最後の約束を破ってσxを測定するというのは、二人がテレパシーでも感じてでしょう。もしそのような超自然的なできごとがあった場合でさえ、通信が回復し、二人が答えを突き合わせるまで、相関していることはわかりません。
アリスとボブを合わせた合成系の量子系の波動関数を考えることも可能です。通信経路が失われた、回復した場合、も同様に考えられます。そうした場合、σzがいつでも相関しているのはわかります。しかし、どちらが先に測定したかは、特殊相対論によれば、慣性系によっても変わってしまいます。なので、いつ収縮したか、を考えるのは全く意味がないことが分かります。