2022/01/10 03:56
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密度行列は量子力学の基本変数です。そして密度行列は およびを満たす必要があります。ただ、最後の、つまり半正定値条件は行列の固有値が0以上というもので、取り扱いが面倒です。同値な条件はいくつか知られています。その一つに すべての主小行列式がゼロ以上、というのがあります(佐竹線形代数p.163 §4, 定理6 とその脚注参照) これを使うと、密度行列の要素から有限個の不等式で書き下すことができます。
今回は3準位系の密度行列に対する条件を、密度行列の要素の不等式で書き下す、ということをしてみます。
三準位系では、の密度行列になり、主小行列式は個でてきます(だと個となります)。今後のことを考えると、減らしたいところです。ところで、半正定値条件でなく、正定値条件は、のすべての主座小行列式がゼロと同値なので、3個、の密度行列でも個の行列式を調べるだけでokです。これに還元してやるという手法を考えます。
その前に についてです(対偶をとると、なので、自明になります)。同様にの半正定値条件は、となり、の首座行列式たちを考えて、のべきでまとめ、各項を精査するという方針をとります。はの単位行列です。
堀田量子本には、3準位系の密度行列に対する条件は露わには書いてありませんでした。Phys. Lett. A 314, 339 (2003)を参照せよとあります。今回は、そのarXiv版であるhttps://arxiv.org/abs/quant-ph/0301152 を参照しつつ、見てゆきましょう。
この場合、式(3.15)は変更され、 から、 と定数が変わります。 それに伴い、密度行列も から、 という式を使うように変更します。
Copy from sympy import *
Copy var('λ1:18', real=True)
(λ1, λ2, λ3, λ4, λ5, λ6, λ7, λ8, λ9, λ10, λ11, λ12, λ13, λ14, λ15, λ16, λ17)
Copy e=Symbol('epsilon', real=True)
Copy _λ1=Matrix([[0,1,0],[1,0,0],[0,0,0]]) _λ2=Matrix([[0,-I,0],[I,0,0],[0,0,0]]) _λ3=Matrix([[1,0,0],[0,-1,0],[0,0,0]]) _λ4=Matrix([[0,0,1],[0,0,0],[1,0,0]]) _λ5=Matrix([[0,0,-I],[0,0,0],[I,0,0]]) _λ6=Matrix([[0,0,0],[0,0,1],[0,1,0]]) _λ7=Matrix([[0,0,0],[0,0,-I],[0,I,0]]) _λ8=1/sqrt(3)*Matrix([[1,0,0],[0,1,0],[0,0,-2]]) _λ8
Matrix([
[sqrt(3)/3, 0, 0],
[ 0, sqrt(3)/3, 0],
[ 0, 0, -2*sqrt(3)/3]])
Copy (_λ8*_λ8).trace()
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密度行列 を代入します
Copy ρ3= Rational(1,3)*eye(3) + Rational(1,2)*(_λ1*λ1 + _λ2*λ2 + _λ3*λ3 + _λ4*λ4 + _λ5*λ5 + _λ6*λ6 + _λ7*λ7 + _λ8*λ8) ρ3
Matrix([
[λ3/2 + sqrt(3)*λ8/6 + 1/3, λ1/2 - I*λ2/2, λ4/2 - I*λ5/2],
[ λ1/2 + I*λ2/2, -λ3/2 + sqrt(3)*λ8/6 + 1/3, λ6/2 - I*λ7/2],
[ λ4/2 + I*λ5/2, λ6/2 + I*λ7/2, -sqrt(3)*λ8/3 + 1/3]])
Copy ρ3.trace()
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まずは、手始めにの行列式を求めてみましょう。
Copy ρ3.det()*54*4 ρ3_det=ρ3.det()*54*4 ρ3_det
18*sqrt(3)*λ1**2*λ8 - 18*λ1**2 + 54*λ1*λ4*λ6 + 54*λ1*λ5*λ7 + 18*sqrt(3)*λ2**2*λ8 - 18*λ2**2 - 54*λ2*λ4*λ7 + 54*λ2*λ5*λ6 + 18*sqrt(3)*λ3**2*λ8 - 18*λ3**2 + 27*λ3*λ4**2 + 27*λ3*λ5**2 - 27*λ3*λ6**2 - 27*λ3*λ7**2 - 9*sqrt(3)*λ4**2*λ8 - 18*λ4**2 - 9*sqrt(3)*λ5**2*λ8 - 18*λ5**2 - 9*sqrt(3)*λ6**2*λ8 - 18*λ6**2 - 9*sqrt(3)*λ7**2*λ8 - 18*λ7**2 - 6*sqrt(3)*λ8**3 - 18*λ8**2 + 8
上式はゼロ以上です(必要ないですが、216を掛けました。比較しやすくするためです)。以下に、文献の(31)式を引用しました。
これらを比較すると、(i) 式全体の符号が違います。(ii) ではなく、とが入ってきてます。おそらく論文のミスでしょう。
論文では条件式がこれで終わってます。我々の場合はこれだと不十分で、主行列式を調べつくす必要があります。おそらく、独立な不等式ではなく、徒労に終わると思われますが、調べる必要はあります。まずは、を求めてみます。
Copy ρ3_e= Rational(1,3)*eye(3) + Rational(1,2)*(_λ1*λ1 + _λ2*λ2 + _λ3*λ3 + _λ4*λ4 + _λ5*λ5 + _λ6*λ6 + _λ7*λ7 + _λ8*λ8) + eye(3)*e ρ3_e
Matrix([
[epsilon + λ3/2 + sqrt(3)*λ8/6 + 1/3, λ1/2 - I*λ2/2, λ4/2 - I*λ5/2],
[ λ1/2 + I*λ2/2, epsilon - λ3/2 + sqrt(3)*λ8/6 + 1/3, λ6/2 - I*λ7/2],
[ λ4/2 + I*λ5/2, λ6/2 + I*λ7/2, epsilon - sqrt(3)*λ8/3 + 1/3]])
上の行列の正定値条件は調べる必要はありません。何故ならば、すでに調べているからです。問題は、この行列のすべての首座小行列式を調べることです。まずは、2x2行列を調べましょう
Copy ρ3_2=ρ3 ρ3_2.col_del(2) ρ3_2.row_del(2) ρ3_2
Matrix([
[λ3/2 + sqrt(3)*λ8/6 + 1/3, λ1/2 - I*λ2/2],
[ λ1/2 + I*λ2/2, -λ3/2 + sqrt(3)*λ8/6 + 1/3]])
Copy ρ3_2_e = ρ3_2 + eye(2)*e
Copy ρ3_2_e.det()
epsilon**2 + sqrt(3)*epsilon*λ8/3 + 2*epsilon/3 - λ1**2/4 - λ2**2/4 - λ3**2/4 + λ8**2/12 + sqrt(3)*λ8/9 + 1/9
Copy collect(ρ3_2_e.det()*4*9,e)
36*epsilon**2 + epsilon*(12*sqrt(3)*λ8 + 24) - 9*λ1**2 - 9*λ2**2 - 9*λ3**2 + 3*λ8**2 + 4*sqrt(3)*λ8 + 4
上の式ですべてので成立させるには、が必要だということです。さらに、のときは、が必要となります。
これらが独立であるかは簡単にはわかりません。実際、一番初めに求めた式のにを代入してみると、
Copy ρ3_det.subs(λ4,0).subs(λ5,0).subs(λ6,0).subs(λ7,0)/2
9*sqrt(3)*λ1**2*λ8 - 9*λ1**2 + 9*sqrt(3)*λ2**2*λ8 - 9*λ2**2 + 9*sqrt(3)*λ3**2*λ8 - 9*λ3**2 - 3*sqrt(3)*λ8**3 - 9*λ8**2 + 4
となり、かなり似た式が出てきて、多分独立ではなさそうな雰囲気ですが、確固としたことは言えません。
最後の首座行列式は一つの不等式です。
Copy ρ3_2 ρ3_2.col_del(1) ρ3_2.row_del(1) ρ3_2
Matrix([[λ3/2 + sqrt(3)*λ8/6 + 1/3]])
Copy ρ3_2.det()
λ3/2 + sqrt(3)*λ8/6 + 1/3
これも0以上である必要があります。ただ、これも、独立ではなさそうな気がしますが、わかりません。
これは学術論文ではないので、とりあえず簡単にここまでにしておきます。いずれにせよ、わかるのは、2準位系のときの単なる球ではなく、3準位系での密度行列が満たすべき条件、特に半正定値条件は複雑なたちの多項式の不等式になるということです。さらに、求めた不等式たちは正しいのですが、独立かどうかはわからないということです。おそらく独立ではないと思います。いずれにせよ、どの不等式も満たす必要はありますし、満たした暁にはその密度行列は、3準位系の密度行列であるということではあります。
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