シュレーディンガー方程式を導く、または堀田量子 (6.13)式をどうやって解釈するか

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

堀田量子教科書のp.83からp.85までで、シュレーディンガー方程式を導くことを行います。また、(6.13)が天下り的な感じがします。この二つに対する説明をざっと行ってみます。


量子力学での基本変数は密度行列ρ^\hat \rho です。密度行列に物理的な操作を施して新しい密度行列ρ^\hat \rho^\prime を得ることを考えます。これを量子通信路(quantum channel) Γ\Gamma と呼ぶことにしましょう。ρ^=Γ[ρ^]\hat \rho^\prime =\Gamma [\hat \rho] とします。このΓ\Gamma にはどのような写像が考えられるでしょうか。量子力学の原理として、TPCP写像 (trace preserving complete positive map)である、とするのが自然です(これについては教科書などをご覧ください、長くなるので省略しました)。


次に、TPCP写像Γ\Gammaが量子通信路だと認めると、すべての量子通信路は、Steinspring表記ができる、ということが定理としてでてきます。つまり、

Γ[ρ^]=TrA[U^SA(ρ^00)U^SA]\Gamma[\hat{\rho}]=\operatorname{Tr}_{A}\left[\hat{U}_{S A}(\hat{\rho} \otimes|0\rangle\langle 0|) \hat{U}_{S A}^{\dagger}\right]

と書けるのです。ここで00|0\rangle \langle 0| は補助系で、添え字はAとし、密度行列ρ^\hat \rho の添え字はSとしてます。U^SA\hat U_{SA} はSとAにまたがるユニタリ行列で、トレースは補助系について取ります。そして着目している系での密度行列ρ^\hat \rho^\primeを求めます。


量子系の時間発展を量子通信路と見做します。すると

ρ^(t)=TrA[U^SA(t)(ρ^0(t)0(t))U^SA(t)]\hat{\rho}(t)=\operatorname{Tr}_{A}\left[\hat{U}_{S A}(t)(\hat{\rho} \otimes|0(t)\rangle\langle 0(t)|) \hat{U}_{S A}(t)^{\dagger}\right]

となります。Steinspring表記は、時間発展を考える場合、上の式の中に出てくる補助系0(t)0(t)|0(t)\rangle \langle 0(t) | に強い制限を課します。つまり、いつでも00|0\rangle \langle 0| と考えることができます。実際、U^SA(t)U^SA(t)(I^U^A(t))\hat{U}_{S A}(t) \rightarrow \hat{U}_{S A}(t)\left(\hat{I} \otimes \hat{U}_{A}(t)^{\dagger}\right)

と置き換えてやれば、

ρ^(t)=TrA[U^SA(t)(ρ^00)U^SA(t)]\hat{\rho}(t)=\operatorname{Tr}_{A}\left[\hat{U}_{S A}(t)(\hat{\rho} \otimes|0\rangle\langle 0|) \hat{U}_{S A}(t)^{\dagger}\right]

とできます。TPCP写像を量子力学の原理の一つに選ぶと、任意の時間発展は、SとAの合成系に対するユニタリで書けるというものでした。これからの系として、任意の時刻でρ^\hat \rho が純粋状態であれば、その後もずっと純粋状態であることが分かりました。


もし初期状態が純粋状態ならば、系の時間発展では

Ψ(t)SA=U^SA(t)ψS0A|\Psi(t)\rangle_{S A}=\hat{U}_{S A}(t)|\psi\rangle_{S}|0\rangle_{A}

と置けます。ここからシュレーディンガー方程式を以下のように導きます。


上の式を時間で微分します。つまり

ddtΨ(t)SA=ddt(U^SA(t)ψS0A)\frac{d}{dt} |\Psi(t)\rangle_{S A}=\frac{d}{dt} \left ( \hat{U}_{S A}(t)|\psi\rangle_{S}|0\rangle_{A} \right )

を考えます。我々知りたい方程式の形式は、時刻tに関する状態

Ψ(t)SA|\Psi(t)\rangle_{S A}

に対する微分方程式です。上にでてきた式の左辺は、初期状態から時間発展させた後の状態ベクトルΨ(t)SA |\Psi(t)\rangle_{S A} の時間微分を考えてます。しかし、右辺は時刻0での状態で、時間発展はU^SA(t)\hat{U}_{S A}(t)にさせています。欲しいのはΨ(t)SA |\Psi(t)\rangle_{S A}に対する方程式なので、変更が必要です。そうすると、逆に考える必要が出てきます。ただ、それも簡単で、Ψ(t)SA |\Psi(t)\rangle_{S A} に「U^SA(t)\hat{U}_{S A}(t)^\dagger を作用させ時刻0に戻し、そこからU^SA(t)\hat{U}_{S A}(t) で時間発展させる」演算子にまとめてやればよいだけです。つまり、

(ddtU^SA(t))U^SA(t)\left(\frac{d}{d t} \hat{U}_{S A}(t)\right) \hat{U}_{S A}(t)^{\dagger}

を作用させればよい。実際

(ddtU^SA(t))U^SA(t)Ψ(t)SA\left(\frac{d}{d t} \hat{U}_{S A}(t)\right) \hat{U}_{S A}(t)^{\dagger} |\Psi(t)\rangle_{S A}

とすれば、括弧の解釈は若干混乱するかもしれませんが、

ddtU^SA(t)Ψ(0)SA\frac{d}{d t} \hat{U}_{S A}(t) |\Psi(0)\rangle_{S A}

行列のパラメータtでの微分となります。

ddtΨ(t)SA=(ddtU^SA(t))U^SA(t)Ψ(t)SA   (=U^SA(t)Ψ(0)SA)\frac{d}{d t} |\Psi(t)\rangle_{S A} = \left(\frac{d}{d t} \hat{U}_{S A}(t) \right ) \hat{U}_{S A}(t)^{\dagger}|\Psi(t)\rangle_{S A} \,\,\, ( = \hat{U}_{S A}(t) |\Psi(0)\rangle_{S A} )

確かに所望の時間での時間微分になっています。この左辺と中辺、特に中辺の演算子をもう少し変形します。


やっと前振りが終わりです。この(ddtU^SA(t))U^SA(t)\left(\frac{d}{d t} \hat{U}_{S A}(t)\right) \hat{U}_{S A}(t)^{\dagger} はHamiltonianのような演算子です。しかし教科書の定義とは異なります。教科書(6.13)式では、

Ω^SA(t)=i2((ddtU^SA(t))U^SA(t)U^SA(t)(ddtU^SA(t)))\hat{\Omega}_{S A}(t)=\frac{i}{2}\left(\left(\frac{d}{d t} \hat{U}_{S A}(t)\right) \hat{U}_{S A}(t)^{\dagger}-\hat{U}_{S A}(t)\left(\frac{d}{d t} \hat{U}_{S A}(t)^{\dagger}\right)\right)

を説明もなく天下り的に与えました。ここから一体どうすればこのΩ^SA(t)\hat{\Omega}_{S A}(t) にたどり着くのかを理解したくなります。これを慮ってみました。


まず再確認ですが、Steinspring表記より、時間発展(量子通信路)はかならずユニタリ演算子でなければなりません。ただ、今回は、微分方程式を求めているわけなので、無限小時間発展をする演算子Ω^SA\hat \Omega_{S A} に対する条件を考えます。時刻0のΨ(0)SA|\Psi(0)\rangle_{S A} をdtだけ時間発展させてみましょう。すると

U^SA(dt)Ψ(0)SA=Ψ(dt)SA=(I^+iΩ^SA(0)dt)Ψ(0)SA+O(dt2)\hat{U}_{S A}(dt) |\Psi(0)\rangle_{S A} = |\Psi(dt)\rangle_{S A} = (\hat I + i\hat\Omega_{S A}(0) dt ) |\Psi(0)\rangle_{S A} + O(dt^2)

となります。この時出てくるΩ^SA\hat \Omega_{S A} はエルミート行列である必要があります。というのも、dtだけ無限小時間発展(これはユニタリ的です)させたあと、先の演算子のエルミート共役をとり、-dtだけ無限小時間発展させる(これはユニタリのエルミート共役なので、逆行列になるはずです)と元の状態に戻る、つまりこれらの積は単位行列のはずだからです。

(I^+iΩ^SA(0)dt)(I^+iΩ^SA(0)dt)=(I^iΩ^SA(0)dt)(I^+iΩ^SA(0)dt)=I^+O(dt2)(\hat I + i\hat\Omega_{S A}(0) dt )^\dagger (\hat I + i\hat\Omega_{S A}(0) dt ) = (\hat I - i\hat\Omega_{S A}(0) dt ) (\hat I + i\hat\Omega_{S A}(0) dt ) = \hat I + O(dt^2)


翻って、(ddtU^SA(t))U^SA(t)\left(\frac{d}{d t} \hat{U}_{S A}(t)\right) \hat{U}_{S A}(t)^{\dagger} を見てみると、U^SA(t) \hat{U}_{S A}(t) はユニタリ( U^SA(t)U^SA(t)=I^\hat{U}_{S A}(t) \hat{U}_{S A}(t)^\dagger = \hat I )行列ですが、(ddtU^SA(t))U^SA(t)\left(\frac{d}{d t} \hat{U}_{S A}(t)\right) \hat{U}_{S A}(t)^{\dagger}はエルミート行列でもユニタリ行列でもありません(後で見るように、歪エルミート行列です、ならiを掛ければよいと思うかもしれません。正解です。ですが、すいません、ちょっと我慢して付き合って下さい)。物理量としてはあり得ませんが、形式的には時間微分させることは可能でした。なので、ここからエルミート行列を作ることを考えてみましょう。まずは、単位行列を時間微分してみましょう。明らかに0です。しかし、ユニタリ行列とそのエルミート共役の積としての時間微分と考えることもできるわけです。

ddt(I^)=0=ddt(U^SA(t)U^SA(t))\frac{d}{d t}(\hat I) = 0 = \frac{d}{d t} ( \hat{U}_{S A}(t) \hat{U}_{S A}(t)^\dagger)

右辺の微分は

ddt(U^SA(t)U^SA(t))=ddt(U^SA(t))U^SA(t)+U^SA(t)ddt(U^SA(t))=0\frac{d}{d t} ( \hat{U}_{S A}(t) \hat{U}_{S A}(t)^\dagger) = \frac{d}{d t} \left ( \hat{U}_{S A}(t) \right ) \hat{U}_{S A}(t)^\dagger + \hat{U}_{S A}(t) \frac{d}{d t} \left ( \hat{U}_{S A}(t)^\dagger \right ) = 0

なので、

ddt(U^SA(t))U^SA(t)=U^SA(t)ddt(U^SA(t))\frac{d}{d t} \left ( \hat{U}_{S A}(t) \right ) \hat{U}_{S A}(t)^\dagger = - \hat{U}_{S A}(t) \frac{d}{d t} \left ( \hat{U}_{S A}(t)^\dagger \right )

が成立します。つまりΩ^SA \hat \Omega_{S A} には二つ項が出てきます。同じものを加えています。次に、ddt(U^SA(t))U^SA(t)\frac{d}{d t} \left ( \hat{U}_{S A}(t) \right ) \hat{U}_{S A}(t)^\dagger  のエルミート共役をとると、U^SA(t)ddt(U^SA(t))\hat{U}_{S A}(t) \frac{d}{d t} \left ( \hat{U}_{S A}(t)^\dagger \right )なので、

A=ddt(U^SA(t))U^SA(t)A = \frac{d}{d t} \left ( \hat{U}_{S A}(t) \right ) \hat{U}_{S A}(t)^\daggerA=U^SA(t)ddt(U^SA(t))A^\dagger = \hat{U}_{S A}(t) \frac{d}{d t} \left ( \hat{U}_{S A}(t)^\dagger \right )

とすると、実は、この二つは

A=AA=-A^\dagger

の関係にあります。これは歪エルミート行列とよばれるです(Lie群を学ばれた方は、歪エルミート行列の指数関数はユニタリ行列になることをご存じだと思います。ただ、歪エルミート行列の固有値は純虚数です。一方で量子力学では物理量を実数にするため、固有値が必ず実数のエルミート行列を用います。これを調節するため、虚数単位iが必要となります。ここを面白いと思うか気持ち悪いと思うかは好みのわかれるところです)


さて、最後に

Ω^SA=iAA2\hat \Omega_{S A} = i\frac{A - A^\dagger}{2}

とすると、Ω^SA\hat \Omega_{S A}が自明にエルミートであることが分かります。符号の違う同じ値を引いて、虚数単位を掛ける、2で割る、と無駄なことをしつつも、エルミート性は明白にしたい、強調したい、というところが(6.13)の気持ちだと思います。ですが、実際はΩ^SA(t)=iddt(U^SA(t))U^SA(t)\hat \Omega_{S A} (t) = i \frac{d}{d t} \left ( \hat{U}_{S A}(t) \right ) \hat{U}_{S A}(t)^\dagger で十分です。


最後に、H^SA(t)=Ω^SA(t)\hat{H}_{S A}(t)=\hbar \hat{\Omega}_{S A}(t) と置いてやることで、

iddtΨ(t)SA=H^SA(t)Ψ(t)SAi \hbar \frac{d}{d t}|\Psi(t)\rangle_{S A}=\hat{H}_{S A}(t)|\Psi(t)\rangle_{S A}

シュレーディンガー方程式を導くことができました。ハミルトニアンは量子系でも古典系でも、無限小時間発展を生成する演算子、または正準変換の母関数となっていて、量子系と古典系の対応を見るのに便利です。しかもちょうどプランク定数/2πという定数で結びついていて、人間が使う単位にちょうどあっている、というのも素敵です。最後に、補助系を無くすことは簡単なので略します。

Nakata Maho
RIKEN
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