先日4/16に中田さん主催の「みんなの量子コンピュータ 」Zoom読書会が終わりましたので、
本の内容と所感を簡単にまとめてみました。
本のリンクは以下です。
https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798163574
https://www.amazon.co.jp/dp/4798163570/
本書をひとことでいうと
量子コンピューティングの入門者が、最初の一歩で把握すべきポイントがまとまった本
本書のいいところ
- 理論の基礎となる「線形代数」についてきちんと語られているところ
- 古典論、量子論間での同じ部分・異なる部分を細かく比較しながら説明をしているところ
- 基礎→理論→実用、という立て付けで、「量子コンピューティングは難しい」という心理障壁を段階的に下げる章構成になっているところ
本書のもうちょっとなところ
- 数式や矢印の方向にところどころ間違いがあるところ
- 章末に確認問題がないため、理解度の確認タイミングがないところ
- 英語本からの翻訳なのでちょっと文面がわかりづらい部分があるところ
本書の内容要約
ざっくり内容をまとめてみました。2章、5章、8章がハードルで、この本の勘所である印象です。
1章 スピン
量子性とは何か、イオンのスピンを扱った「シュテルン=ゲルラッハ」の実験を例にとり「ランダム性」「測定」等の量子の現象を説明します。もう一つ、代表的な量子現象として光の偏光を紹介します。
2章 線形代数
量子理論を学ぶ上で絶対に避けては通れない線形代数を学びます。
ベクトル、行列から始まりここから頻繁に出てくるブラ、ケットについての基本要素を丁寧に説明しています。
数字に苦手意識を持つ方はまず最初のハードルですが、のちの章を読むうえでもしばらく辞書代わりに使えます。
3章 スピンと量子ビット
1章で説明した「スピン」を2章で学習した「線形代数」での表現の仕方を学習します。
後半では「アリスとボブとイブ」による量子通信、暗号化基礎についても語られています。
量子理論と量子現象の重ね合わせを最初に感じることができる章になります。
4章 量子もつれ
量子の重要な特性のひとつ「量子もつれ」について学びます。
もつれというのはどのような状態か、なぜ片方の状態が確定すればもう片方の状態が確定するのかを
これも線形代数を用いた数式でSTEP by STEPで語っていきます。
5章 ベルの不等式
4章で一部紹介した量子状態の表記方法のベースとなっている「コペンハーゲン解釈」が、どのように形作られていったかを経緯を交え説明します。
古典としてのアプローチと、量子的なアプローチで結果に差異が発生する「ベルの不等式」に至るまでの先人たちの努力が語られています。
6章 古典論理、ゲート、回路
古典論理で使われるNAND等の回路、およびゲートとその使い方の説明です。
のちの7章の「量子ゲート」を学習する下地となります。
7章 量子ゲート
6章のゲート理論をベースに実際に量子回路を組むうえで必要となる量子ゲートを学びます。
次に量子ゲートを用いた基礎的な回路であるベル回路、超高密度符号化、量子テレポーテーションを説明します。
この章でblueqatチュートリアルの基礎レベルは理解できるようになるかと思います。
8章 量子アルゴリズム
これまでの知識を総動員し、これまでの量子学者たちが気付いてきた量子アルゴリズムを学びます。
ドイッチのアルゴリズム、ドイッチ・ジョザのアルゴリズム、サイモンのアルゴリズムの順で解説されており、目的に応じて解を求める量子アルゴリズムの基礎が語られています。
9章 量子コンピューティングの与える影響
8章までに語られなかったショアのアルゴリズム、グローバーのアルゴリズム、続けてハードウェアの現状、量子科学計算、アニーリング、量子宇宙について触れられています。
全体的には「今後量子の世界にすすむひとたちへの概要の紹介」といった印象で、最後は量子業界の発展を期待するメッセージで締めくくられています。
読書会に参加してみて
私自身、技術書の読書会に参加するのは今回が初めてだったのですが、
講師の中田さんはじめ参加メンバーにフォローしていただきつつ読み進められたのはありがたかったです。
量子コンピューティングの学習がうまくいかない・続かない方は読書会を活用してみるのもよいかもしれません。