量子計算機におけるノイズの基礎:自然放射

量子計算機におけるもっとも単純なノイズである自然放射の理論上における扱い方を解説します。自然放射はあらゆる量子系に存在する光子を放出して状態が遷移する過程です。これはマスター方程式で解ける状態の中でもっとも簡単です。それには下式のようなマスター方程式を解きます[1]。

\begin{equation} \frac{d}{dt}=[H,\rho]\frac{1}{i\hbar}+\gamma(\bar{n}+1)(\sigma^+ \rho \sigma^- -\frac{1}{2}\sigma^- \sigma^+ \rho -\frac{1}{2}\rho \sigma^- \sigma^+)+\gamma\bar{n}(\sigma^- \rho \sigma^+ - \frac{1}{2}\sigma^+ \sigma^-\rho -\frac{1}{2}\rho \sigma^+ \sigma^-) -(1) \end{equation}

ここで、$\gamma$、$\bar{n}$はそれぞれデコヒーレンス係数とボース・アインシュタイン統計における光子の個数です。ハミルトニアンは次のようになります。 \begin{equation} H=\frac{1}{2}\omega_0 \hbar \sigma^z -(2) \end{equation}

これを解いて、以下のようになります。

\begin{eqnarray} \frac{d}{dt}\rho = \left( \begin{array}{cc} -\gamma\bar{n}\rho_{00}+\gamma(\bar{n}+1)\rho_{11}&-0.5(\omega_0 i + 2\gamma\bar{n}-\gamma)\rho_{01} \ 0.5(\omega_0 i -2\gamma\bar{n}-\gamma)\rho_{10}&\gamma\bar{n}\rho_{00}-\gamma(\bar{n}+1)\rho_{11} \ \end{array} \right)-(3) \end{eqnarray} 対角項は、 \begin{eqnarray} \frac{d}{dt}{\rho_d}=\left( \begin{array}{cc} -\gamma\bar{n}&\gamma(\bar{n}+1) \ \gamma\bar{n}&-\gamma(\bar{n}+1) \ \end{array}\right) {\rho_d}-(4) \end{eqnarray} と出来ます。連立微分方程式を解くのと同じ要領で以下のようになります。 \begin{equation} {\rho_d}=\left( \begin{array}{c} Ae^{-(2\bar{n}+1)\gamma t} + c_0 \ -Ae^{-(2\bar{n}+1)\gamma t} - c_1 \ \end{array} \right)-(5) \end{equation}

式(4),(5)から係数はこのようになります。

\begin{equation} c_0=\frac{\bar{n}+1}{2\bar{n}+1}, c_1=\frac{-\bar{n}}{2\bar{n}+1}-(6) \end{equation} こうして、密度演算子の各要素はこのようになります。

\begin{eqnarray} \rho_{00}(t)&=&Ae^{-(2\bar{n}+1)\gamma t}+\frac{\bar{n}+1}{2\bar{n}+1} \ \rho_{11}(t)&=&Ae^{-(2\bar{n}+1)\gamma t} + \frac{\bar{n}}{2\bar{n}+1} \ \rho_{10}(t)&=&A_1e^{-\frac{1}{2}(2\bar{n}+1)\gamma t}e^{\frac{1}{2}\omega_0 it} \ \rho_{01}(t)&=&A_2e^{-\frac{1}{2}(2\bar{n}+1)\gamma t}e^{-\frac{1}{2}\omega_0 it} \ \end{eqnarray}-(7)

非対角項における減衰項は対角項における減衰項のちょうど半分になっていることがわかります。これはそれぞれ横緩和、縦緩和時間と呼ばれるものの逆数です。 これは、古典的な状態より量子状態における重ね合わせの方が強いということです。今回、自然放射の計算ということで、式多めになりましたが、ノイズの計算においてはこれでも少ないほうです。計算はかなり端折りましたが、簡単なので自力で確かめて頂けると幸いです。

[1]Giuliano Benenti, Giuliano Casati, and Giuliano Strini. Principles of Quantum Computation and Information Volume I: Basic Concepts. Splinger, 2004

Hikaru Wakaura
個人研究者の若浦 光です。量子アルゴリズムの実装結果や論文の紹介などを載せていきます。 mail: hikaruwakaura@gmail.com
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