論文紹介:時間結晶ネットワークにおける融解のシミュレーション。


今回は、時間結晶(タイムクリスタル)における融解を量子計算機でシミュレーションした結果を示す論文を紹介します。時間結晶とは、時間方向に並進対称性の有する系のことです。つまり、一定の条件下で頑健な周期性を有する系のことです。これは、自発的に起こることはありませんが、ポテンシャルを印加することで実現する特殊な格子においては出現します。その1つが離散フロケ格子です。この格子は周期変化するハミルトニアンで表され、


H1=g(1ϵ)lσlx  (0<t<T1)H_1=\hbar g(1-\epsilon)\sum_l\sigma_l^x ~~(0<t<T_1)

H2=l,mJlmzσlzσmz+lBlzσlz  (T1<t<T2)H_2=\hbar\sum_{l,m}J_{lm}^z\sigma_l^z\sigma_m^z+\hbar\sum_lB_l^z\sigma_l^z~~(T_1<t<T_2)


となります。ここで、gはg因子と呼ばれる定数、ϵ\epsilon はエラー率、σlz,σlx\sigma_l^z,\sigma_l^x はそれぞれパウリ行列のz,x成分です。また、このハミルトニアンの周期はT=T1+T2T=T_1+T_2 です。量子計算機上では、これの代わりに有効ハミルトニアンを使います。


Hϵ,Teff=σiEiii+i,jKijijH_{\epsilon,T}^{eff}=\sigma_i \Epsilon_i \mid i \rangle \langle i \mid + \sum_{i,j}K_{ij}\mid i \rangle \langle j \mid


量子計算機上では、系は量子ビットにおける0と1をそれぞれ量子スピンにおける上向きと下向きに対応させて計算し、時間結晶のネットワークはエンタングルメントした量子ビット系における状態の組で表されます。上記のものを含めた2種の有効ハミルトニアンで計算した結果、エラー率が高まるほど時間結晶の融解が多く起こり、ドメインウォール*で分けられた大きな時間結晶が複数生成されることが確認されました。また、波数に対する状態の分布関数は8から12量子ビットまでのものを計算した結果、エラー率が小さい場合はべき分布に、大きい場合は正規分布になりました。


これはエンタングルメント生成において重要な結果です。任意のエンタングルメントされた状態をこれで作成することも可能になりえます。この逆の過程をどうするのかも気になるところです。これはblueqatにおいても十分シミュレーション可能な研究なので、機会があればこの結果を再現してみたいと思います。


[1907.13146] Simulating complex quantum networks with time crystals (arxiv.org)


*スピン系において構造を分ける境界面。ここではエンタングルメントされた状態群を区別する境界。

Hikaru Wakaura
個人研究者の若浦 光です。量子アルゴリズムの実装結果や論文の紹介などを載せていきます。 mail: hikaruwakaura@gmail.com
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