量子計算機を用いた変分量子化学計算の動向・後編

前回は、変分量子化学計算を紹介し、そのプロセスを大まかに述べました。


今回は、Variational Quantum Eigensolver(VQE)における各プロセスにおける工夫とそれによるVQEの発展形を紹介します。


評価関数:

VQEを発展させるのに一番多く行われているのが、評価関数の改変です。

Subspace-Search VQE(SSVQE)[1]、Variational Quantum State Eigensolver(VQSE)[2]がこれにあたります。SSVQEは、複数の状態におけるエネルギー期待値の和を最適化することで、同時に複数の状態を求めることができます。また、VQSEは、ハミルトニアンと密度演算子の積におけるトレースを最小化することで、望む状態を求めます。

評価関数は量子計算機で計算することさえできれば何でもいいため、まだまだほかのアルゴリズムを考案する余地は残っています。

実際に、量子変分人工知能の分野は、その評価関数を変えることで拓かれました。


クラスター:

クラスターにおける使用するクラスター、あるいはクラスターの生成を独自のアルゴリズムに置換することで計算を行う発展形も複数存在します。

例えば、今はやりのADAPT-VQE[3]は一電子励起、二電子励起のクラスターを付加し、極小値を求めた後でその微分期待値を0に近付け、評価関数の変化が一定値以下にならなければまた別のクラスターを付加して一連の流れを繰り返します。Multiobjective-Genetic VQE[4]では離散遺伝アルゴリズムでクラスターを作り、その都度局所最適化で評価関数を最小化し、最も評価関数が小さく求まるクラスターを探索することで計算を行います。クラスター単体も多く考案されています。今でもここはVQEの性能を上げるために改善の余地が多く残っているため、腕に覚えがあれば一気に実用化可能な発展型を確立することができるかもしれません。


後処理:

計算後の後処理によって、精度の向上を目指す方法もあります。

Multiscale-Contracted VQE(MCVQE)[5]はSSVQEによって求めた状態の一次関係を作ります。それでハミルトニアンを挟んだ行列を作り、それを対角化することで精度の向上を目指します。実機におけるエラーを抑える方法で、Quantum Subspace Expansion(QSE)[6]も考案されています。これによる発展型は他と比べて少なく、狙い目かもしれません。


このほか、最適化手法、初期値を工夫することで精度を上げる発展形はまだあまり出てきてはいません。

これらを工夫する発展型は私が今研究しており、現在査読中のものが一報あります。

それは出版されたのちに公開します。


[1] K. M. Nakanishi, and. et. al., arXiv:1810.09434v2[quant-ph](2018)

[2] M. Cerezo, and et. al., arXiv:2004.01372[quant-ph](2020)

[3] H. R. Grimsey, and et. al., Nat. Comm.10.3007(2019)

[4] D. Chivilikhin, and et. al., arXiv:2007.04424[quant-ph](2020)

[5] R. Parrish et al., Phys. Rev. Lett. 122, 230401 (2019)

[6] J. R. McClean, and et. al., Nat. Comm. 11.636(2020)

Hikaru Wakaura
個人研究者の若浦 光です。量子アルゴリズムの実装結果や論文の紹介などを載せていきます。 mail: hikaruwakaura@gmail.com
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