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[論文解説] Morvan, A., Villalonga, B., Mi, X., Mandrà, S., Bengtsson, A., Klimov, P. V., Chen, Z., Hong, S., Erickson, C., Drozdov, I. K., Chau, J., Laun, G., Movassagh, R., Asfaw, A., Brandão, L. T., Peralta, R., Abanin, D., Acharya, R., Allen, R., . . . Boixo, S. (2023). Phase transition in Random Circuit Sampling. ArXiv. /abs/2304.11119¶

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2023/09/17 11:35

#有料記事 #論文解説

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[論文解説] Morvan, A., Villalonga, B., Mi, X., Mandrà, S., Bengtsson, A., Klimov, P. V., Chen, Z., Hong, S., Erickson, C., Drozdov, I. K., Chau, J., Laun, G., Movassagh, R., Asfaw, A., Brandão, L. T., Peralta, R., Abanin, D., Acharya, R., Allen, R., . . . Boixo, S. (2023). Phase transition in Random Circuit Sampling. ArXiv. /abs/2304.11119

概要:

70量子ビットを持つ第二世代Sycamore量子プロセッサ上でのランダム量子回路サンプリングを行い、同時に理論的解析から、量子回路がその層の深さとノイズの大きさによっていくつかの相の間での転移を示し、今回の実験は現在知られている古典的シミュレーションによっては到達不可能な量子性を示す低ノイズ相に確実に入っていることを示した。

背景:

2019年、Googleは53量子ビットのSyacamoreプロセッサによるランダム量子回路サンプリングのタスクによって、いわゆるQuantum Spremacyを達成したと報告した。この論文中で彼らが200秒程度で実行したサンプリングを、古典コンピュータでは10410^4年程度かかると述べた。しかしこれを後にIBMのチームは古典コンピュータ上で2.5日で計算できることを示し、またその後2021年には中国のチームがスーパーコンピュータ上で同等の計算を300秒で行ってみせた。つまりこの時点でSycamoreプロセッサが達成した内容は、真に量子コンピュータの優位性を示しているのかは評価の分かれることになった。

この論文の成果:

本論文は、その2019年の論文に対するGoogle自身のフォローアップということができ、より多くの量子ビットを持つ第二世代のSycamoreプロセッサとより洗練された理論的解析により、このランダム量子回路サンプリングという特定のタスクに関しては、議論の余地なく量子プロセッサの優位性を示したものと言える。

手法

第一の相転移

まず、最初に層の数と出力される量子状態の関係を検討する。その挙動は端的にはこのFig. 1Aに示されており、まずノイズがない場合、つまり図の一番下の横軸に注目すると、層の数が少ないうちは入力に与えた初期状態の影響が残るため、ビットパターン毎に見た出現確率が特定のものに偏る傾向があるが、層の数が一定の値を超えると、このビットパターンの出現確率の分布が初期状態の影響をほぼ受けずに、ポータートーマス分布と呼ばれる指数関数的なふるまい(図では縦軸が対数になっていることに注意)を示すようになる。さらにこれにノイズが加わると、初期状態の影響がより早く打ち消されるため指数的ふるまいの領域により少ない層数で転移する。この領域では2019年の論文でも用いられたクロスエントロピーベンチマーク(XEB)が量子性のよい指標になる。ただし、この領域に入っていることは高い量子性の必要条件にすぎず、量子性の確認のためにはもう一つの観点からの相転移を見る必要がある。

第二の相転移

次に考えなければならないのはノイズが量子状態に与える影響で、これはFig. 2Bの方に反映されている。こちらもグラフの下部、ノイズのない理想的な状態から考えると、系全体がエンタングルして全量子ビットが一つの大きな量子状態を形成している。一方、ここに一定以上のノイズが加わると長距離の量子相関が打ち消され、系の状態は複数の小規模なクラスターからなる量子状態の積に分解する。前者を弱ノイズ相、後者を強ノイズ相と呼ぶと、弱ノイズ相が実現されていなければ、量子ビット数が多くても実質的には少ない量子ビット数しかないのと同じであり、各クラスターごとに容易に古典コンピュータでシミュレートできることになる。

fig1.png

したがって、実機が十分な層の数で、かつ低ノイズ領域で動作していることを確認することが重要になる。エラーの大きさを表すパラメータとしてゲートあたりのエラー率ϵ\epsilonをとると、n量子ビット回路であれば層あたりのエラーはnϵ\epsilonとなる。

一方で回路全体がどの程度理想的な量子回路に近く動作しているかは、次のクロスエントロピーベンチマーク(XEB)と呼ばれる量で測定できる。psim(s)p_{\mathrm{sim}}(s)は特定のビットストリングsの理想的な回路での出現確率で、XEBはこれと実機での確率分布のクロスエントロピー、つまり確率分布としての距離と対応する量である。

XEB=2npsim(s)1experiment (1)\mathrm{XEB}=\left\langle 2^n p_{\mathrm{sim}}(s)-1\right\rangle_{\text {experiment } \tag{1}}

層数とXEBの挙動

XEBの挙動を見ることで、この二つの相転移に関しての分析が可能になる。その様子は次のFig. 2に示されている。

fig2.png

Fig. 2Aの挙動を理解するために層の数dが0の場合を考えると、状態は初期状態のままなので、psim(s)p_{\mathrm{sim}}(s)はsが初期状態に対するビットストリングのときだけ1の値を取るクロネッカーデルタになる。層数が0ならノイズの影響も考えなくてよいのですべての観測値はsになり、、psim(s)p_{\mathrm{sim}}(s)の期待値は1を与え、XEBは2n12^n-1であり、オーダーexp(n)\exp(n)である。層の数dが少ないうちはnへの依存性はexp(n)\exp(n)のままだが、一層ごとに初期状態から様々なビットストリングに振幅が分散していくので、XEBはexp(ned)\exp(ne^{-d})という挙動をとる。そして層数が十分大きくなると初期状態の影響は薄れて挙動が変わり、FenϵF\sim e^{-n\epsilon}で与えられる層あたりのフィデリティによって、XEBFd\sim F^dという挙動を見せるようになる。これが先に述べた第一の相転移であり、この二つの相のクロスオーバーはおよそedϵde^{-d} \sim \epsilon dとなるあたりで起きる。これからゲート当たりのエラー率からこの相転移の起きる層数を推定でき、実際にFig. 2Aと2B(それぞれ1次元系と2次元系の場合)を見ると、縦軸が対数目盛であることに注意すると、dに関するXEBの挙動が2重指数関数から指数関数に切り替わっており、しかもその切り替わりが起きる層数は量子ビット数によらずおよそ10になっていることが分かるので、これより十分大きな層数を用いれば、あとは低ノイズ相か高ノイズ相かを見ればよいことが分かる。

弱リンクモデル

これを見るために、次のような弱リンクモデルを考える。n量子ビット系をn/2量子ビットずつの系二つに分割し、その二つの系の間をT層ごとに一つの2量子ビットゲートで連結する。Tが無限大の極限では二つの系は相互作用していないので、理想的なケースでの各系の初期状態の影響がなくなった、つまりエルゴーディックな量子状態をρA\rho_AρB\rho_Bとすると、系全体の状態はρAρb\rho_A \otimes \rho_bとなる。実際はノイズが存在することから、フィデリティeϵn/2e^{-\epsilon n/2}が一層あたりでエラーが起きない確率と解釈できることに注意して、各部分系の量子状態はFd/2ρA/B+(1Fd/2)IA/B/2n/2F^{d / 2} \rho_{A / B}+\left(1-F^{d / 2}\right) I_{A / B} / 2^{n / 2}となる。全系のXEBは、XEBの加法性と、理想的エルゴード状態に対しては1、最大エントロピー状態I/2n/2I/2^{n/2}に対しては0であることから、XEB =Fd+2Fd/2=F^d + 2F^{d/2}となる。

以上は二つの部分系が完全に独立していた場合だが、これを大きいが有限のTごとに2量子ビットゲートで連結すると、一つのゲート毎に確率1λ1-\lambdaで二つの部分系がエンタングルして、系全体で一つのエルゴード状態を形成しようとする。この実験で用いられたiSWAPゲートの場合、λ=1/4\lambda = 1/4である。これを考慮に入れると、

XEB2λd/TFd/2+Fd(2)\mathrm{XEB} \approx 2 \lambda^{d / T} F^{d / 2}+F^d \tag{2}

となる。これを実験で得られた挙動 Fig. 2Cと比較してみる。strong noise(オレンジ)の方のデータは、回路中にあえて冗長なゲートとその逆ゲートを挿入することでノイズを実効的に大きくすることで得られている。ノイズが小さいときは(2)式の第2項が支配的で、dが大きくなるにつれ第1項は無視できるようになる。Fig. 2Cのweak noise(ブルー)のデータも実際にd=40あたりからはほとんどFdF^dのラインと一致している。Fが1よりかなり小さい場合のstrong noiseの方のデータでは、第1項の寄与が無視できないのでFdF^dのラインよりかなり上に来ている。

同様のことは、Fig. 2Dで層あたりのエラーϵn\epsilon nを大きくすると(つまりFを小さくすると)、破線で示されたFdF^dのラインから実測値が乖離していくことからも見て取れる。 Fがどの程度1に近いかによってXEBのどちらの項が支配的になるかが決まるので、Fd/XEBF^d/XEBをオーダーパラメータとして採用すると、低ノイズ相では1、高ノイズ相では0になる。

この二相の切り替わりはFig.3で見ることができ、確かにϵn\epsilon nが大きくなると1から0へと変化しており、そしてこのクロスオーバー点は層の数によらずほぼ一定で、これがクリティカルエラー率に対応している。 A-Cは一次元のスピン鎖を結合した形の弱リンクモデルで、部分系を結合する2量子ビットゲートの間隔を8, 12, 18と変化させてテストしたもので。Tが大きくなるほど部分系同士のエンタングルが弱くなるのでノイズの影響を受けやすく、より低いノイズの値でクロスオーバーが発生している。E, Fは量子ビットが2次元に配置されている場合で、部分系内部の量子回路の構成によっても相転移点が影響されることが分かる。いずれの場合も、Tを変えながらクロスオーバーの起きるノイズの値を調べることにより、1/Tϵn1/T - \epsilon n平面での相図を描くことができる。1次元の場合がD、2次元の場合がGであり、両者で大きく挙動が異なっている。2次元の場合は各部分系内部のバルクによって量子状態が構成されるので、弱リンクの影響をほとんど受けないことが見て取れる。また今回の70量子ビットSycamoreプロセッサのノイズレベルはG図に星印で記してあり、十分な余裕をもって低ノイズ相にあることがわかる。

結果

image.png

今回の主要な結果はFig.4に要約されており、Fig.4Aは古典シミュレーションが可能なように70量子ビットを二つ(緑)あるいは三つ(青)の領域に分割して、各部分ごとに理想的な場合のシミュレーションを行い、これと実測値の比較によってXEBを求めたものである。分割のために除かれた2量子ビットの持つエラーがなくなるので、フルにデバイス全体を利用した時よりFが大きくなっているが、層数に対する挙動はほぼFdF^dになっていることが見て取れる。70量子ビットのデバイス全体を利用した場合は直接古典シミュレーションができないのでXEBの値も直接に算出することはできないが、分割した場合のフィデリティの挙動から推定すると赤い星印の部分に相当する。この量子回路の行っている計算の困難さを、テンソルネットワークで古典シミュレーションを行った場合の計算量で見積もるとはめ込み図のようになり、2019年の段階にくらべて大幅に計算の困難さが増していることがわかる。

この計算の困難さを評価するための古典計算の手法として、今回の論文ではテンソルネットワークの縮約による方法とMPSベースの手法の二つを検討しており、テンソルネットワークに関しては今までよりも改善された計算法を提案してその上での評価となっている。またMPSでは今回の実験に相当するフィデリティでの計算は現在のスーパーコンピュータのメモリでは困難であると述べている。

与えられたフィデリティの下でテンソルネットワークの縮約によって特定の一つのビットストリングに対する振幅を計算する場合の、メモリ制限を考慮しない場合の計算量を考えると、これは計算の困難さの下界となり、各実機での実験に対してこれを評価したものが下図である。

image.png

Fig.4Bがこのように評価した計算量で、量子ビット数と層数によるプロットとなっているが、非常に大まかには両者の積がゲート数に比例することを思うと、計算量の等高線が、nd=constnd = constの双曲線に定性的には似通っていることは理解できる。またこの計算量(FLOPs)をFrontierスーパーコンピュータをフル稼働させた場合で時間に換算した値も書かれており、これで見ると2019年のSycamoreプロセッサでの実験は数秒で再現できるということになり、一方今回の70量子ビットの第二世代Sycamoreプロセッサは、古典シミュレーションにはほぼ一年以上を要するということがわかる。

Fig.4Cは古典シミュレーションをMPSによって行った場合で、この場合はまず実機で達成されているような10310^{-3}前後のフィデリティを保って計算することが不可能で、フィデリティ10410^{-4}での評価となっている。それでもすでに今回の70量子ビットでの実験はFrontierスーパーコンピュータではメモリの制約により不可能であり、メモリの制約を忘れても、さらにストレージの制約からももう古典的にシミュレーションを行うことが不可能な領域に入っている。今後スーパーコンピュータの性能向上によってこの境界線が多少移動することはありうるが、現時点で、この第二世代Sycamoreプロセッサは、ランダム量子回路サンプリングというあまり実用的とは言えない問題ではあるが、古典コンピュータでは計算不可能な領域に確実に入っていることが証明されたと言ってよいだろう。

参考文献

[1] Morvan, A., Villalonga, B., Mi, X., Mandrà, S., Bengtsson, A., Klimov, P. V., Chen, Z., Hong, S., Erickson, C., Drozdov, I. K., Chau, J., Laun, G., Movassagh, R., Asfaw, A., Brandão, L. T., Peralta, R., Abanin, D., Acharya, R., Allen, R., . . . Boixo, S. (2023). Phase transition in Random Circuit Sampling. ArXiv. /abs/2304.11119

[2] Arute, F., Arya, K., Babbush, R., Bacon, D., Bardin, J. C., Barends, R., Biswas, R., Boixo, S., Brandao, F. G., Buell, D. A., Burkett, B., Chen, Y., Chen, Z., Chiaro, B., Collins, R., Courtney, W., Dunsworth, A., Farhi, E., Foxen, B., . . . Martinis, J. M. (2019). Quantum supremacy using a programmable superconducting processor. Nature, 574(7779), 505-510. https://doi.org/10.1038/s41586-019-1666-5

[3] Zhu, Q., Cao, S., Chen, F., Chen, M., Chen, X., Chung, T., Deng, H., Du, Y., Fan, D., Gong, M., Guo, C., Guo, C., Guo, S., Han, L., Hong, L., Huang, H., Huo, Y., Li, L., Li, N., . . . Pan, J. (2021). Quantum Computational Advantage via 60-Qubit 24-Cycle Random Circuit Sampling. ArXiv. /abs/2109.03494

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