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重ね合わせとシュレーディンガーの猫 - 量子コンピュータの原理

Tetsuro Tabata

2021/05/25 05:12

#重ね合わせ #シュレーディンガーの猫

重ね合わせとシュレーディンガーの猫 - 量子コンピュータの原理

§ この記事の目的

量子コンピュータの基本的な原理となっているものが「重ね合わせの原理」です。
この重ね合わせの原理は、現代物理学の重要な一部をなす量子力学で基本原理として認識されています。

重ね合わせの原理にちなんだ面白いお話として「シュレーディンガーの猫」というお話があるので、ぜひ量子コンピューティングの話題の一つとして読んでみたいと思います。

§ 重ね合わせの原理と量子コンピューティング

量子コンピューティング技術に必要な原理の一つが重ね合わせの原理です。
これまでの私たちが普段使用しているコンピューターは、ビットと呼ばれる計算単位を使用していて、ビットが0(ゼロ)なのか1(イチ)なのかで全ての情報を識別し計算の処理を行っています。計算の途中で0が自然に1に変わったり、その逆が起こったりはしません。計算の処理が終わるまでビットの値は保たれます。

ところが、これとは全く反対の原理もしくは発想と言っても良いかもしれません、0と1の両方の状態・性質を持ったビットを使用して計算を行うという試みが量子コンピューティング技術です。
つまり、ビットは0でもあり、1でもあるわけです。0と1は同時に存在し、その値が何であるかを観測したときに確率的に0か1かが決まります。

この0と1のビットが同時に存在するという性質は、量子力学の重要項目の一つである「状態の共存」が基となっています。

ちょっと理解しにくい物理の話になりますが、物質の極小単位の世界である分子や原子、イオン、素粒子において、この状態の共存が見られます。
例えば、原子核の周りを回っている電子がある時刻においてどこにいるか、その位置を特定しようとすると状態の共存が邪魔をして位置を観測できなくなる性質があります。
あくまで電子の位置は原子核の周りに確率的に存在していて、どの位置ならこれくらいの確率で、また別の位置にはどのくらいの確率で存在している、というふうにしか言うことができません。観測するまでは電子はあちらこちらに同時に存在し、観測したときに初めて位置が分かるというわけです。
この性質により、先ほど「電子は原子核の周りを回っている」と書きましたが、厳密には回っているのではなく、確率的に存在している、イメージでいうと雲のようにぼんやりと周りを取り囲んでいる、となります。

この観測するまでわからないというのがキーワードです。
観測するまでは状態は重ね合わさっています。ビットの場合は0と1が同時に重ね合わさっていると言えます。

§ 重ね合わせを作り出す方法

上記のような重ね合わせの状態を作り出すことができれば、量子コンピューティングの基礎的原理として使用することができます。

現在、様々な方法で重ね合わせの状態を作り出す方法が研究され、実用化に向けて改良が行われています。
そのうちの以下の4つの例を紹介しますが、この他にも様々な方法が考案・研究されています。

 (1) 光子の偏光
(2) 超電導回路
(3) イオン状態のエネルギー
(4) 電子のスピン

(1) 光子の偏光

光子は素粒子の一つで、陽子や中性子よりさらに小さい粒子の一つです。
光子は粒子と波の二重性の性質を持つことから、波として振動するという挙動を示します。この振動の方向が偏光です。
2つの偏光の向きをそれぞれ0と1に対応させ、重ね合わせの原理に応用する試みです。

(2) 超電導回路

ある金属を極低温に冷却することで電気抵抗が0になるのが超電導です。
超電導状態で円環状の回路に電流を流した時に、例えば右回りに回る電流とその反対方向の左回りに回る電流、これらの2つの方向の電流を0と1に置き換え、重ね合わせの原理に応用する試みです。
IBM社はこの方式を採用しています。

(3) イオン状態のエネルギー

イオン化した荷電粒子を真空中に固定し(浮かべて)、これに特定のエネルギーを持つ電磁波を照射することで荷電粒子のエネルギー準位を変化させます。
異なるエネルギー準位を0と1に置き換え、重ね合わせの原理に応用する試みです。
IONQ社はこの方式を採用しています。
この方式についての詳しい説明を書きましたので、以下からご覧下さい。

■イオントラップ型量子コンピュータの仕組み - イオン化粒子と量子ビット
https://blueqat.com/tetsurotabata/dc495e37-3f77-4185-926a-0daf4b0e7d34

(4) 電子のスピン

電子が持つスピンという物理量を0と1に置き換え、重ね合わせの原理に応用する試みです。
シリコン(ケイ素)などから「量子ドット」と言われる構造を作り、その中に閉じ込めた電子のスピンをビットとして応用します。
スピンには上向きスピンと下向きスピンがあり、電子の回転のようなものを表す性質です。

§ シュレーディンガーの猫

2つの用語「状態の共存」「観測するまでわからない」が出そろいましたので、ここでシュレーディンガーの猫の説明をしたいと思います。

物理学や自然科学に詳しい方はご存知の方もいらっしゃると思いますが、このシュレーディンガーの猫の話は、量子力学の一つの思考実験として有名なお話となっています。
このお話は、ノーベル物理学賞受賞者の一人である物理学者、エルヴィン・シュレーディンガー氏が考え出したものです。

下図のように、密閉空間の中に一匹の猫と毒ガス発生装置(中央下のハンマーと毒ガス入りビン)が入っています。

毒ガス発生装置は放射線検出器(左下のマイクのような形の装置)と連動していて、検出器の前に放射性物質を含む鉱物が置かれています。放射性物質はウランやラドンなどで、原子核が崩壊したときに放射線を放出します。

放射線検出器が放射線を検知すると毒ガス発生装置が働き、毒ガス入りのビンがハンマーで壊され、空間内に毒ガスが充満します。すると猫が毒ガスにより死んでしまいます。

さて、放射性物質はいつ放射線を放射するかは確率的なものとなり、予測できません。
猫が生きているか死んでいるかは、観測者が観測するまでわかりません。

ここには2つの状態の共存が存在しています。
つまり、原子核が崩壊した状態としていない状態、さらに猫が生きている状態と死んでいる状態です。

史実によるとシュレーディンガーは、もしこのような仮説が成立するのであれば、半死半生の猫が実際に存在することになり、現実にそれは起こり得るはずがないと批判したということです。

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引用:別冊Newton「量子論のすべて」

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