こんにちは。量子コンピュータをお仕事としているものです。
個人では量子コンピュータ関連の書籍なども書いています。ビジネス書2冊、基礎的なところの数理の基礎的な翻訳書1冊。プログラミングの基礎を1冊書いています。事業でもこれまで量子アニーリングからスタートし、量子ゲートもできますし、数多くのプロジェクトこなしています。
この量子コンピュータ業界を生きるには多くのことを学ぶ必要がありますが、企業として量子コンピュータの教科書に書いてあるようなソフトウェアを使う という事は収益面でリスクがあると改めて感じます。
具体的には利用するアルゴリズムは、量子位相推定、量子振幅増幅、量子断熱計算(量子アニーリング)などです。 これらの理論は、確かに美しいと思います。量子の力学の仕組みを理解し、美しい形で数式を量子回路と呼ばれる計算できる形に取り込む必要があります。これらの落とし込みは量子アルゴリズムのルールにのっとり、半自動的に決まっていきます。確かに研究としては先の見通しが良く、かつ理論的には合っていそうなので、こうしたものを使う事は合理的に見えるかもしれません。 しかし、事業としては非常に多くのリスクを抱えると言えます。
量子位相推定は、ハミルトニアンと呼ばれる定式化の固有値を求めるために利用します。一般的には指数加速が得られると言う触れ込みで開発が進んでいますが、まずはハードウェアが必要です。これらのハードもソフトも研究開発は基礎研究となっております。しかし企業にとって今現在これらの理論が必要かと言われると必ずしもそうは思いません。現状ではアルゴリズムが利用できる見込みは立っておらず、企業としても基礎研究として長い目を見て、大学や研究所のサポートに回る必要があると思います。中長期の基盤研究を支えると言う志に基づけば企業としては参画する意義があると思います。しかし、これが収益化につながるかと言うと全くつながりません。なのでその辺は割り切りをする必要があります。弊社はベンチャー企業として投資を受け、収益化最優先で行っています。そのため、このような物を支えるよほどの資金的余裕や志はありません。
量子振幅増幅も同様です。グローバーのアルゴリズムや量子振幅推定のような新しいアルゴリズムについても同様に加速性などを通じて社会応用がされるような雰囲気は全くありません。
量子アニーリングや量子断熱計算はより曖昧で判断するバランスが悪くなります。もともとは量子加速性が量子トンネリングなどを通じて得られるという触れ込みでありましたが、最近の研究ではそうしたものはあまり得られないことがわかり始めています。そのため期待感とは裏腹に、事業としてはかなり困難であると言わざるを得ません。しかし国プロなどの大きなプロジェクトとしては、そうした企業が大学の基礎研究を支えると言う意味で期待が高く、こうした組合せ最適化問題を続けるという事例が引き続き増えています。 ただ、もともと事業性としても、組合せ最適化問題が既存のコンピューターでおいても、そもそも市場のサイズが大きくないのではという、別の観点での事業性の評価も併せて考えると、なかなか大きく市場が広がると言う事は考えづらいと思います。
これも9年間量子コンピュータ行って参りましたが、量子の美しい理論から導かれる量子加速性やメリットは、事業を行ってきた事業者視点ではなく、いろんな美しい理論を記述した研究者目線であることが多く、実際海外でも日本でもそうした事業性のなさを国プロや予算で支えると言う構図は変わっていません。米国でもこれらの構図は大きくは変わらず、国が予算をつけて何とか前向きに量子技術の発展を支えている状況になっています。現場ではこのような状況では、予算がつき、生活でき、ある程度の事業化や将来的な市場規模の拡大を見越した支援が行われています。そうした市場に関わるものも志し高く、研究者を中心として、事業にコンバートしてきたような人材が奮闘している状況になっています。
こうした研究を推進するために、事業の収益性を犠牲にして人材を獲得したり、育成したりしている現状を把握した上で、量子業界にチャレンジすると言うのは問題がないと思います。しかしいつまでこうした状況が続くのかと考えると、量子業界も前からメンバーが固定化されていますが、最近はこうした業界の現状に耐えられず退場する企業や個人も増えていますし、逆に新しく参入してくる企業や個人も増えているため、新陳代謝 を通じて事業の継続を全体として行うと言う構図になっています。ずっと続けている人は見えない出口に向かって、だんだんと量子技術を磨いていくと言うような業界になっています。
では、本当に量子業界から収益性を取りたいと考える企業や個人はどうすれば良いのでしょうか実際これまで量子業界を支えてきたのは、量子業界の黎明期から生き残ってきた量子技術に興味があり、そして業界全体を発展させたいと言う志が強い研究者や個人などが多かった気がします。しかし今後はそうはいきませんし、上がだんだん大きくなるにつれて、こうした志を持った人だけではなく、純粋に量子業界をビジネスの場として収益性を確保するための方法だけを追求する人たちも増えてきています。 そうした人たちが果たして、これまで量子業界が歩んできたような美しい理論に基づいてやっていれば、まぁ100年位先には使えるだろうと言う見込みで、すぐには使えないが、将来的な見込みとして理論的な枠組みを提示することにより、理論的には間違っていないのだから、そのうち実現されるべきであるもしくはされるだろうと言う楽観的な見込みで研究開発を行う人は当然一定数残ると思います。しかし、果たして事業性を真面目に考えた場合に、量子業界に残るべきかどうかというのを考える人もいると思います。
これらの事業性と志しのアンバランスさが、現場の量子業界のマーケットの狭さ、そして上場している量子企業のバリエーションの低さに直結していると考えられます。黎明期から量子業界で生きてきた人たちは、低い給料と低い研究費に慣れてしまっているがため、大きな志を金銭面で持つ事は稀です。せいぜい数億円程度の予算があれば満足してしまうと言う人も多いと思います。実際貧乏だった頃には声が大きかったですが、最近の国プロで予算がつくなって全く発言しなくなった研究者が1ダースぐらいいます。まだ予算が取れてない人は声も大きいですが、そのうち予算が取れれば小さくなるでしょう。
しかしこうしたサイズの研究費や市場規模でまとまらないのが今後の量子コンピューティング業界だと思われます。量子コンピューターのベンチャー企業がさんざんもてはやされておきながら上場して蓋を開けてみたら、企業価値が200億円程度と言うのは異常です。200億と言うのは大きいように見えますが他の業界からしたら、ベンチャー企業の最先端企業が業界全体でその程度のバリエーションっていうのはまずありえません。ありえるとしたらその業界もマーケットが小さいマイナー分野です。これらの理由は、量子コンピューティング業界が魅力的に映らないと言う結果にしか相当しません。今後私たちが企業価値を数千億、数兆円と伸ばしていく過程において、こうした課題を解決する必要がありますが、多くの企業がバリエーションに伸び悩んでいます。バリエーションをあまり考えないと言う人も多いです。しかし、バリエーションと言うのは期待感の裏返しであり、投資をするときの大きな目標となりますので、これが伸びない限りは業界に関しても大きな期待感を得られないと感じます。
教科書のような動きをしていれば、業界全体も盛り上がりません。2020年代に入り、新しいプレイヤーが全世界から続々と集まっています。顔ぶれも新しくなっており大変楽しく感じます。古くからやってる人たちはだいぶ疲れて頑張ったので、一旦退場となっても、満足感とともにまぁそんなものかと言う人も多いでしょう。今後業界を盛り上げるためにはより多くのスタープレイヤーを育てる必要があります。新しい知見を持って既存の量子技術の枠にとらわれないような新しい 技術の発展が重要になると思います。
深層学習に関しても、バックエンドに潜む理論よりも事業としての有用性が優先されて発達してきました。ChatGPTなどの大規模言語モデルに関しても同じようだと思います。必ずしも教科書に載っているような理論的な理論が発達したわけではなく、あくまでユーザとのコミュニケーションの中で有用な技術が残ってきたと思います。量子業界も早くそんなフェーズに入ってくれればいいなと毎日感じていますが、現場ではやはり理論優先となってしまっているため、まだまだ時間はかかるだろうと思います。
研究分野においては特に言う事はありません。弊社は特に事業の収益化についての考察をしています。この事業の収益化と言うのは、企業にとって非常に重要であり、永続的にプロジェクトを進めたり、企業を発達させて行ったり、個人の生活を豊かにするために、私たち企業人は収益性に関して常日頃から意識する必要があり、そしてこれ以外のことを考える必要は無いのではないかと言う位大事なものです。量子業界における収益化に関しては、多くの人はきちんと考えていないと思われます。まだ黎明期なのでそんな事は無理だと言う人もいると思いますし、そうした考え方が量子コンピューティング業界における企業の発達が遅い原因の1つとなっています。まぁそれは仕方がないことですが、何とかならないかなぁと思いながら、生暖かく業界を見てきたいと思います。以上 ポエムでした。