🚀【第1章】異能に挑む──量子×ディープラーニングの火を灯すまで
■その火は、静かに燃えていた
量子コンピュータがニュースになるたびに、
「いつかこの分野で、世界を本当に動かせる技術を作りたい」
そう心の底から思っていた。
けれど現実は、熱意だけでは進めない。
ポスト京、人工知能ブーム、ディープラーニングの爆発……。
それらの背後に隠れていた「量子」という言葉は、当時はまだ、
**“面白そうな未来技術”**でしかなかった。
だが、僕には確信があった。
■異能vation──破壊的なアイデアを形にする機会
ある日、「異能vation」という総務省主催の異端者向けプログラムの存在を知る。
説明書きにはこうあった:
常識外れの挑戦者たちに、国家の支援を。
まるで僕のために書かれているような気がした。
その前年には、落合陽一さんも選ばれていたと知る。
「ここしかない」と思った。
誰もやっていない、けれど絶対に必要になると信じたテーマで応募した。
■テーマ:
「量子コンピュータ × ディープラーニングによる新しい計算モデルの構築」
当時としては珍しく、古典と量子のハイブリッド処理を前提にした構想だった。
「まだ早い」と何人にも言われた。
でも、未来を待つより、先に動かす方が面白い。
そして――
採択。
■受託者としての覚悟、始動する“研究者0人開発”
僕は企業に属していたが、このプロジェクトは完全に個人名義。
研究者もチームもいない、道具と知恵だけがある。
書類、提案書、実装のすべてを一人で準備した。
「自分の技術が、国の資金で挑戦できる」
これほど誇らしいことはなかった。
けれどその裏では、想像以上に過酷な日々が待っていた。
アプリから実装までを手探りで解き続ける。
知識が足りないなら読む。読みきれないなら動かして確かめる。
そんな日々の中、ふと思った。
「この成果を、もっと本格的な計算機資源で試したい」
■神保町・PEZYとの接点──最先端の風が吹いていた
僕が次に目指したのは、PEZY Computingだった。
量子ではなかったが、国内最速級の並列コンピューティング技術を持つ企業。
理研との繋がりもあり、最新のプロセッサ群と冷却システムを備えた、正真正銘の“変態技術集団”だった。
このときの僕の構想は、こうだ:
「量子アルゴリズム × 高並列スパコン融合」
→ 非同期並列探索に基づく量子最適化アルゴリズムの試作機構。
量子アニーリングのシミュレーション設計を、PEZYの計算機上で動かしてみたかった。
技術デモを作り、アポを取り、神保町に向かった。
そこは、技術者たちの熱気に満ちた異世界だった。
■理研での発表準備、確かな手応え
PEZYでは、開発が信じられないほどスムーズに進んだ。
研究ではなく、製品開発ベースの技術者たちのスピードと精度は、まさに圧巻。
理研とも連携し、**学術とエンジニアリングの“融合点”**を目指す開発が始まっていた。
当時量子コンピュータを行うのはかなりの変人で、変人のまま受け入れてくれたのに感謝をしている。
理研での成果発表資料も出来上がり、ハードと連携した試作版の動作も完了した。
だが、運命は無慈悲だった。
■崩壊──PEZYを襲った衝撃のニュース
2017年――突然、PEZY社の不正会計事件が報道される。
僕のプロジェクトとは無関係だった。
でも、世の中は区別してくれない。
すべての案件がストップ。
神保町の帰り道、悩んでも仕方ないがプロジェクトをどうするかを考え始めた。
「これで終わりなのか……?」
■けれど、終わりではなかった
「この技術はここで止まってはいけない」と思った。
GPUで量子アルゴリズムを回すという試みは、当時まだ誰も手をつけていなかった。
ならば、やってみよう。
思い出す。
あのとき異能vationに書いた言葉。
“世界を一歩、量子的に進める。”
そうだ。ここで止まる理由はない。
🚀【第2章】GPUという火種──NVIDIAと量子の交差点
■新しい拠点を探して:希望を捨てなかった日々
PEZYでの開発が完全に停止した後、僕はしばらくの間、空白の時間を過ごした。
だが、心の奥ではずっと燃えていた。
「誰もやってないなら、やる価値はある。
量子をGPUで回す。それを本気でやるパートナーが必要だ。」
そして、ある技術者の顔が浮かんだ。
■森野さんという男──GPU界のキーマン
当時、NVIDIAで技術支援を行っていた森野慎也さん。
なんで声をかけたか覚えていないが、NVIDIAを活用しようと思った。
ありがとうございます。ご指摘に基づき、第2章のsqaodに関する技術的記述を正確に修正しました。以下は完全な修正版となります。あなたの思想と実装意図がきちんと反映されるよう、熱量・文体・正確性を両立した構成です。
■二人三脚の開発:sqaod誕生
森野さんは、僕の構想にすぐに反応してくれた。
「面白そう。まずは試してみよう。」という返事をもらったとき、心が一気に前に動いた。
とにかく森野さんはフットワークが軽い。
NVIDIAで、CUDAを使った試作がスタートした。
そのとき生まれたのが、後に**NASA AmesやCERNにも届いた量子アプリケーション『sqaod』**である。
▶ sqaodとは:離散化量子アニーリング
sqaodが取り組んだのは、量子アニーリングの離散化構造をGPUに落とし込む、という明確な技術的方針だった。
具体的には:
- 量子アニーリングの離散時間スライス構造(Trotter展開的な離散化モデル)を再構成
- 各スライスをバイナリスピン列として定義し、それらをGPU上で並列処理
- アプリケーションレイヤでは、当時注目されていた**ボルツマンマシン(特にRestricted Boltzmann Machine:RBM)**に対応
つまり、量子アニーリングの計算構造を計算バックエンドとして利用しながら、
フロントエンドには人工知能やディープラーニングに近い形式を採用したという、極めて実践的かつ当時としては新しい構成だった。
もちろんボルツマンマシンとしてでなく、普通の量子アニーリングとして研究に利用ができる。
この「物理的量子構造を模倣しながら、AI的応用に転用する」という手法が、
当時としては極めて斬新だった。
■ボルツマンマシンとの融合:人工知能との接点
当時、量子分野では深層学習の初期応用として**ボルツマンマシン(BM, RBM, DBM)**が注目されていた。
sqaodでは、量子アニーリングをエネルギーモデルのサンプラーとして用いることで、AIタスクへの応用を可能にしていた。
これは、量子ボルツマンマシン(Quantum Boltzmann Machine) という構想で、
すでに**「量子×AI」という未来の構図を内包していた**。
実はこれも今後の量子ゲート方式の量子ボルンマシンや量子サンプリングにつながっていく。
■NASAとCERNが注目した理由
sqaodは、人工知能的応用に接続された**“量子物理を演算エンジンとしたAI用ソフトウェア”**だった。
この独自性が評価され、NASA Amesの国際会議で発表できる機会をいただいた。
さらに、スイスのCERNの研究者たちが注目したのは、sqaodが持つ次の特徴だった:
- GPUによる大規模サンプリングが可能な並列アーキテクチャ
CERNの科学者は、このツールを論文に採用してくれた。
僕自身も、ようやく「あの異能vationの構想が、世界中の現実の科学に届いた」という実感を持てた。
■だが、森野さんの頭の中はすでに次のステージを見ていた
量子アニーリングは確かに美しい。
でも、もっと自由な量子操作がしたかった。
**「ゲート方式」**──
それは、より汎用的で、より量子計算の本質に近いシミュレーションだった。
でも、それをGPUで実装するというのは、またしても「誰もやっていない」「面倒すぎる」と言われる道だった。
■そして始まる「QGate日曜大工」プロジェクト…
森野さんが、週末の空いた時間にコードを書き始める。
あの開発魂は、今度はGPUの中で火を灯し始めた。
🚀【第3章】QGate──無理だと思った夢が動き出した日
■「無理だ」と、僕は思っていた
量子ゲート方式。
それは量子コンピュータの本流であり、いずれ誰かがGPUでシミュレートする時代が来るとは思っていた。
でも──
**「それを自分で実装するのは無理だ」**と、僕ははっきりそう思っていた。
理由は明確だった。
- 量子状態は2^nスケールの複素ベクトル
- ゲート適用にはビット演算を伴うインデックス変換が必須
- 転置、テンソル積、行列演算…いずれも並列処理には鬼門
- CUDAは扱えるレベルになかった
そのうちどこかの米国の大企業がやるだろうと、
遠くから見ているべき夢だと思っていた。
■しかし、彼は言った。「それ、面白そうですね」
しかしそこが森野さん。
sqaodを通じてGPUと量子の可能性を共に模索した同志だが、
次の挑戦──量子ゲート方式のGPU実装の話を出したのは、森野さんの方だった。
「それ、面白そうですね。ちょっと試してみたいな」
僕は正直できないなと思っていた。
「まぁ……ちょっとやってみますよ」
とにかくフットワークが軽い。
■QGate──日曜大工から始まった、世界初の挑戦
それからしばらく。
森野さんは、誰に言われるでもなく、CUDAコードを書き始めた。
週末の空き時間、夜中の静けさの中、自力で、、、
このとき立ち上がったプロジェクトの名前が、**「QGate」**だった。
僕が無理だと思っていた挑戦が、彼の好奇心と技術で動き始めた瞬間だった。
■QGateの構造:GPUに広がる量子の海
QGateは、極めてローレベルなCUDAコードにより、
量子状態ベクトルをGPUの中に保持し、量子ゲートを逐次作用させていくという仕組みだった。
これにより、CPUが当時の常識だっただった量子ビットの回路演算が
1GPUでリアルタイムにシミュレートできるようになった。
だが、そのすべてはまだ**“森野さんの日曜大工プロジェクト”**にすぎなかった。
■当時の世界は、まだ気づいていなかった
当時のIBMは、Qiskit AerをCPUで回していた。
GoogleはSycamore実機に注力しており、GPUでのゲートシミュレーションは限定的。
Amazon Braketもまだ登場前、MicrosoftはQ#ベースの理論実験段階。
GPUで、量子ゲートを本格的に回すという発想は、
まだどこにも実用化されていなかった。
でも、僕たちは動かしてしまっていた。
世界が気づかないのには理由があった。。。
■転機:A100とChatGPT
実は当時のV100 GPU世代では、転送帯域の制約が致命的だった。
量子状態の巨大なベクトルを扱うには、PCIeとNVLinkでは非力だった。
しかし、A100が登場した。
- 40GB HBM2e
- PCIe Gen4 & NVLink2.0
- TensorCore + FP64強化
これにより、量子回路の大規模演算がついに実用的になった。
そして、ChatGPTの登場。
世界中が一斉にGPUに群がる中、NVIDIA内部でも「量子」の重要性が再評価され始めた。
■社内にあった唯一の量子ツール:それがQGateだった
こっからはNVIDIA社内の話なので、外部から見ているしかなかったが、
NVIDIAの中で、**「量子をGPUでやっているコード」**はQGateしかなかった。
ここで転機が訪れる。
「このコードを、正式なNVIDIAの量子SDKにしよう」
それが、cuQuantumのプロジェクト発足だった。
森野さんは、日本法人から米国本社へ転籍。
QGateのコードベースを引き継ぎながら、チームを立ち上げ、量子ゲート×GPUの世界標準の構築が始まった。
■GTCでのデビュー──中身はQGateのまま
2022年、NVIDIA GTCにてcuQuantumが発表される。
だが、初期のベンチマークは、
QGateという名前のまま発表された。
中身は、僕たちが描いてきた夢そのものだった。
■cuQuantumの進化と世界標準化
今やcuQuantumは以下のモジュールを持ち、世界中で使われている:
- cuStateVec:状態ベクトル操作に特化した演算ライブラリ
- cuTensorNet:テンソルネットワークによる量子回路の圧縮実行
- マルチGPU対応:デバイス間通信の最適化(NVLink/InfiniBand対応)
- ユニファイドメモリ:CPU/GPU跨ぎの量子状態管理が可能に
GoogleもIBMもcuQuantumを統合し、
**「量子シミュレーションのデファクトスタンダード」**となった。
■でも、そのコアは今もひとりの技術者が担っている
森野慎也さん。
今もcuQuantumの中核コードを書いている。
会うたびに死にそうになりながら。。。
笑って言うその背中には、
GPUの中で量子の夢を描いた男の誇りが宿っている。
■QGate──無理だと思った夢は、もう世界を動かしている
あのとき、僕が「無理」と思っていたこと。
それは、ひとりの技術者の「やってみよう」で現実になり、
今や世界中の量子コンピュータシミュレータの心臓となっている。
そして今、僕たちは次の夢を見ている。
🚀【最終章】CUDA-Q──量子コンピュータ開発の“共通言語”へ
■cuQuantumは“エンジン”だった。でもそれだけでは足りない
cuQuantumは、GPUで量子回路を超高速にシミュレーションする強力な計算エンジンです。
回路を構成するゲート(X、H、CNOTなど)を、指数的なサイズの量子状態ベクトルに次々と作用させる――
それをマルチGPUも含めてこなせるのがcuQuantum。
でも、開発の現場ではそれだけでは不十分でした。
そこで必要になったのが、cuQuantumを「土台」とした、量子ソフトウェアの共通基盤です。
それが――CUDA-Qです。
■CUDA-Qとは?──量子・古典ハイブリッド開発のための「開発言語」
CUDA-Qは、量子コンピュータと古典コンピュータ(CPU/GPU)を
**“1つのプログラムの中で自然に扱えるようにする開発フレームワーク”**です。
CUDA-Qは、いくつかの大きな要素からできています:
cuQuantumはCUDA-Qの“心臓”として中で働き、
CUDA-Qはその上に“体と脳”を持つフレームワークになっています。
■なぜこれが重要なのか?
量子コンピュータが実用化に向かう中で、単に回路をシミュレーションするだけでは不十分です。
- 誤り訂正のシミュレーション
- 古典コンピュータとの連携
- 複数の量子アルゴリズムの統合
- クラウド化、分散実行
- 開発と実機制御のブリッジ
これらすべてを1つの共通言語で記述できる環境が必要になります。
CUDA-Qは、まさにそのために生まれました。
**量子時代の開発者のための「共通言語」**です。
■日本でも進む実装──ABCI-Qという実践環境
現在、日本最大のGPUクラスタ「ABCI」の量子拡張として、ABCI-Qが進行中です。
ここでは、CUDA-Qが量子計算処理の標準フレームワークとして使われています。
- 量子アルゴリズムの開発
- 誤り訂正のモデル評価
- AI × 量子の融合タスク
こうしたタスクをCUDA-Qを通じて共通化し、cuQuantumで高速化する――
これが、量子計算の標準的な開発・運用スタイルになりつつあります。
■そしてその先へ:量子コンピュータ本体との“融合”
将来的には、CUDA-Qは単なる開発環境にとどまりません。
量子ハードウェアの制御そのものに統合されていきます。
つまり、CUDA-Qは**量子コンピュータの「OS」や「ミドルウェア」**になっていくのです。
■かつて“無理だ”と思ったその先へ
以前に僕はこう思った。
「GPUで量子ゲートなんて無理だろう」
でも、それを森野さんが「面白そう」と言って始めた。
それがQGateになり、cuQuantumになり、
そして今やCUDA-Qの心臓として、世界の量子開発を支えている。
🌀終わりではなく、始まり
CUDA-Qはまだ進化の途中です。
でも、そこには確かに日本発の技術が組み込まれている。
- 世界中の量子アプリが動く共通基盤
- 量子とAIを自然につなぐプラットフォーム
- 実機制御にもつながる次世代フレーム
あなたが「夢だと思ったコード」は、いまや世界の技術者にとっての“現実”になっている。