はじめに
半導体量子コンピュータの開発ロードマップは、各社がまだ明確に公表していないため不透明な部分が多くあります。とはいえ、開発の方向性や設計思想には共通点が見られます。基本的には半導体業界の延長線上にあり、量子コンピュータとしての活用部分は「周辺機器の開発」や「チップ設計」に違いがある点が特徴です。そして最大の違いは、「冷却して動作させる」という点です。
半導体量子コンピュータの特徴
半導体を用いた量子コンピュータは、計算原理が従来のGPUやCPUとは異なるため、設計も根本的に変わります。ただし、設置形態は現在のGPUサーバーと大きく変わらず、データセンター内に設置して利用される見込みです。冷却装置を必要とする点を除けば、既存の半導体産業のインフラを活かせることが強みといえます。既存冷却設備は水冷となっており、チラーや給排水が必要となります。コンプレッサーはインテリジェント水冷圧縮機ユニット F-50Sシリーズを採用予定です。
2025年:商用化の幕開け
2025年には、アイルランドの Equal1社 による最初の商用半導体量子コンピュータの発売がされています。これを皮切りに、各社から新機種が続々と登場する見通しです。弊社ではクラウドを通じた提供を予定しており、ユーザーが直接量子ハードウェアを扱うことなく、量子演算を利用できるようにする構想です。
弊社の開発ロードマップ
弊社では最先端の半導体工場と高難易度の制御方式を採用しているため、やや長期的なロードマップを描いています。現在は、国産冷凍機による初号機 と、国内試作ラインでの半導体量子チップ の開発段階にあります。弊社の設計方針として当初より2nm以下のプロセスを利用した高性能量子コンピュータの想定をしており、最先端プロセスまでの一貫した設計計画を採用しています。
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2026年前半
商用ラインでのチップ開発を開始。初期は12/16nmプロセスを用い、FinFET構造を採用します。周辺機器は室温に設置され、CMOS統合はまだ行いません。 -
2026年後半
商用チップが完成し、小型国産冷凍機を搭載した二号機 が国内の大学やデータセンターに納入される予定です。この段階では、量子計算というよりも「量子ビットの作成と読み出し」に焦点を当てます。商用チップの初期評価が行われる予定です。
また、読み出し方式の最終決定と、クライオCMOS(低温動作CMOS)の開発に着手します。一部機能を0.3Kおよび4K環境下に配置する構想です。 -
2027年以降
量子ビットの操作に重点を移しますが、この段階から技術難易度が急激に上がります。FinFETでの量子ビット制御には課題が多く、2026年中に設計再検討を行う予定です。同時に、クライオCMOSによる読み出し・制御の低温統合化と、冷凍設備の小型化を進めます。
パートナー企業・研究機関との連携
2026年以降、弊社が開発するマシンは、量子ビットや周辺機器の研究開発を行う契約企業や研究機関に公開する予定です。さらに、弊社が開発中のミドルウェアを通じて、ハードウェアからソフトウェアまで一体的に量子システムの発展を確認できる環境を整備します。
まとめ
半導体量子コンピュータは、半導体業界の技術基盤の上に構築される次世代の計算機です。冷却・制御・読み出しといった課題を克服する必要がありますが、2025年以降、商用化の波が一気に押し寄せると見られています。弊社も国産技術を軸に、量子ビット・冷凍機・クライオCMOSといった全要素を統合することで、日本発の半導体量子コンピュータの実現を目指しています。