「量子100万ビット時代へ:シリコン28と世界で進む静かな素材戦争」
量子コンピュータ開発は、いま100万量子ビットという大規模化のフェーズに突入しつつあります。そのブレイクスルーの鍵となるのが、「28Si(シリコン-28)」という極めて純度の高い同位体シリコンです。
従来のシリコンには核スピンを持つ29Siや30Siが微量に含まれており、量子ビットのコヒーレンス(情報の保持時間)に悪影響を与えていました。これに対して、核スピンを持たない28Siは、非常に長寿命で安定した量子状態を可能にし、大規模な量子プロセッサの基盤材料として注目されています。
この28Siの製造には、ウラン濃縮と同様の高度なアイソトープ分離技術が必要です。具体的にはガス遠心分離法やレーザー分離法などが使われ、これらは核拡散の懸念もあることから、技術自体が国家レベルで厳しく管理されています。
それにもかかわらず、ここにきて世界各国で28Siの市販が相次いでスタートしています。特に注目されるのが、ロシア、中国、南アフリカといった新興勢力の動きです。これらの国々は独自の同位体分離技術を背景に、28Siシリコンウェハーや、さらに応用性の高い**28Si由来の高純度シランガス(SiH₄)**の輸出・市販を開始。量子デバイス製造向けに各国の企業・研究機関が購入を検討し始めています。
このシランガスは、CVD(化学気相成長)などの薄膜プロセスで使用され、28Siを高精度に成膜するのに不可欠な材料です。特にシリコンスピン量子ビットやフォトニック量子回路の分野では、この材料の純度と供給安定性が、性能と量産の両立に直結しています。
アメリカやドイツなどの先進国だけでなく、ロシアや中国、南アフリカのような非西側諸国が28Si供給市場に参入することで、量子技術における地政学的競争が素材レベルでも進行しているのが現状です。
100万量子ビットという夢の実現には、アルゴリズムやハードウェアの進化はもちろん、こうした原子単位の素材戦略と国際供給網の確保が密接に関わってきます。量子の未来は、静かなる素材戦争の行方にもかかっているのです。