世界で加速する半導体量子コンピュータ
2024年から世界各国で半導体量子コンピュータの研究開発が急速に立ち上がり、2025年はいよいよ**「素材レベルの商用化」**が現実になってきました。特に注目されるのが、量子ビットの動作を安定化させる同位体シリコン Si-28 です。
Si-28とは何か?
シリコンは自然界ではSi-28, Si-29, Si-30といった同位体が混ざっています。このうちSi-29は核スピンを持ち、量子ビットのノイズ源となります。そこでSi-28を高純度に分離した単結晶を用いると、スピン雑音が大幅に減少し、量子ビットのエラー率を劇的に低下させることができます。
つまりSi-28は、半導体量子コンピュータの性能を引き上げる鍵素材なのです。
世界で同時に立ち上がる供給体制
これまでSi-28は研究用途に限られ、ロシアや一部の国からわずかに供給されるに過ぎませんでした。ところが今、状況は一変しています。
複数の地域で同時多発的にSi-28供給が始まり、需要を満たし始めています。
価格低下と性能向上の連鎖
供給量が増えることで、これまで高価だったSi-28の価格が下がり始めています。これにより、多くの研究機関や企業がSi-28ベースの半導体量子デバイスを試作できるようになり、性能向上と研究の裾野拡大が一気に進むと期待されます。
半導体量子コンピュータはもともと「シリコン産業との親和性」が高く、製造インフラを流用できます。Si-28の量産化は、量子技術を研究室から産業応用へと押し上げる転換点になるでしょう。
日本はどう動くべきか?
残念ながら日本では、Si-28分離や供給に関する話題はまだ少なく、研究開発体制も遅れ気味です。世界ではすでに量子コンピュータ専用素材の商用化が進み、研究から製品化へとシフトしています。
日本も今後、国際調達や共同研究を積極的に進め、量子半導体の時代にキャッチアップする必要があるでしょう。
注目ニュース:ASP Isotopes社、Si-28の商用生産を開始
半導体量子コンピュータの素材を大きく前進させる動きとして、南アフリカの ASP Isotopes社 が発表したニュースが注目されています。
2025年3月、同社はプレトリアにある第2の分離プラント(ASPプロセス方式)で、ついに Si-28の商用生産を正式に開始しました。これまで研究用途が中心だったSi-28が、ついに産業用途向けに本格的に供給される段階に入ったことを意味します。
発表によると、製造されたSi-28の純度は99.995% に達し、すでに 米国の半導体メーカーと産業ガス企業の2社 と供給契約を締結済みです。出荷は2025年第2四半期から開始予定であり、いよいよ実際の半導体量子コンピュータや関連デバイスに投入されていきます。
さらに生産能力も拡大しており、当初は年間10kg規模とされていたものが、現在では 50〜80kg級へと大幅に引き上げ られています。これにより、これまで「希少素材」だったSi-28が、一気に研究機関や企業の手に届く存在へと変わろうとしています。
この動きは、世界的に高まる半導体量子コンピュータ用Si-28需要に呼応しており、まさに**「必要な素材がついに商用で手に入る時代」**の幕開けを象徴する出来事だといえるでしょう。
まとめ
2025年、半導体量子コンピュータを支える Si-28供給革命 が世界規模で進行中です。素材の供給量が増え、価格が下がり、性能が飛躍的に向上する――この構図は、かつての半導体産業やPCの普及を思わせます。
量子コンピュータの次のブレイクスルーは、計算アルゴリズムではなく、素材の商用化から始まるのかもしれません。