中長期投資が前提の量子コンピューティングスタートアップが、スケール前夜に直面する「初期投資家との出口戦略バトル」の乗り越え方
量子コンピューティングの世界では、「スケール化」がようやく視野に入ったタイミングで、意外な落とし穴にハマることがあります。それが、初期の投資家との意見の衝突です。
「ようやく売上の兆しが見えてきた」
「PoCから商用利用へ段階が上がりそうだ」
そんな希望が見えてきた矢先に、初期投資家からのプレッシャーが高まる──
「早くEXITを」、**「次のラウンドでバリュエーションを抑えろ」**と。
ディープテックには時間がかかると知っているはずの投資家でも、ファンドの存続やリターン計算上、短期的な成果を求めざるを得ない現実があります。では、この構造的なギャップをどう乗り越えればいいのでしょうか?
初期投資家との時間軸ギャップを埋める3つのアプローチ
① 時間軸の認識をすり合わせる「対話設計」
「あと何年でIPOできるのか」「何件の大型案件が必要なのか」
こうした問いに曖昧なままだと、初期投資家側は不安になります。
明確なマイルストーン設計と、IRストーリーの共有が鍵です。
例:
- 政府機関との長期契約を進めている
- 次年度に数億規模の商用化案件が決定している
- 海外展開でPMFが確認できた etc.
こうしたスケールの構想をドキュメントとして見せ、EXITまでの現実的ルートを一緒に描くことが、最初の一歩です。
② セカンダリー取引の活用で“安心感”を提供
「もう儲かってるんだから一部売らせて」
これは初期投資家にとって自然な心理です。
それなら、一部株式をセカンダリー(既存株主間取引)で流動化させる選択肢を用意してみてはどうでしょうか。
- 新しい中長期視点の投資家(たとえばCVCや公共系ファンド)にバトンを渡す
- 初期投資家は一部利益確定+名誉的な成功体験を得る
このような「Win-Win構造」が描ければ、敵対せずに交代してもらうことが可能です。
③ “ブランド的成功”での満足も用意する
初期投資家が求めるのは必ずしも金銭的リターンだけではありません。
特に
- 業界レピュテーションの強化
- 政策提言や報道露出
- 次のファンド調達時の実績としての成功例
といった「名誉リターン」も重要視します。
例えば、量子分野における政府とのプロジェクト採択や、社会的意義のあるユースケース実績は、投資家側の“ストーリー作り”に有効な材料となります。
「バトル」ではなく「エンディング設計」
本質的には、これは“バトル”ではありません。
むしろ、初期投資家に対してどんな「着地物語」を用意できるかがポイントなのです。
EXITは必ずしもIPOではありません。
- 量子人材プラットフォームとしてのM&A
- 海外ハードウェア企業との技術統合による吸収型EXIT
- 上場前のプレマーケット投資家へのスムーズな株式移動
など、複数の着地パターンを設計して共有することが、信頼と未来への投資をつなぐ鍵です。
終わりに
量子コンピューティングは、産業と社会の根本構造を変え得る深いテーマです。
時間がかかるのは当然。でも、その“深さ”こそが、将来の巨大なリターンに繋がります。
初期投資家との出口戦略のギャップに悩んでいる方へ。
ぜひ、「共にゴールへ向かうチーム」として、もう一度未来を描き直してみてください。