量子コンピュータの開発競争は今新たなステージに入っています。これまでは量子アニーリングが2017年ごろ、量子ゲートマシンの中でもNISQと呼ばれるタイプが2020年ごろまで開発が過熱しました。今はそのさらに次のステージに入っています。
現在最先端の市場をにぎわすのは、
1,イオントラップ
2,冷却原子
3,光量子コンピュータ
となっていて、おもにこれらは光学系の装置を使って計算を行うタイプの計算機となっていて、それぞれ利用する量子の種類は、
1,イオン
2,原子
3,光子
となっています。今回は3番目の光量子コンピュータについて現状の課題と今後の展開について教えてもらった内容を中心にざっくりとまとめてみたいと思います。
光量子コンピュータは汎用量子ゲートマシン
光量子コンピュータはとりあえず量子ゲートマシンを目指していて、量子ゲートと呼ばれるタイプの演算をしますが、どうやら光マシンといえどもニュースに出るようなものはいろいろ技術的な制約がありそうでした。量子ゲートマシンを目指すと書いてあるのは、現状は機能特化型マシンがニュースの中心となっていて、今後汎用計算のほうに向かうようです。
光子
今回利用する量子は光子と呼ばれる空中を飛び回る光の粒です。光量子コンピュータの利点は、常温常圧、そして遠距離通信と相性が良いなどの特徴があります。
光量子ビット
光を量子ビットとして利用する際には、通常の量子ゲートマシンと一緒で、光子をビットとして計算をします。光子をビットとして利用する際のデメリットは光子が失われることで情報が失われれてしまうということで、冗長化が重要になるようです。また、光は光子同士の相互作用が小さいということで、2量子ビットゲートであるCNOTゲートの実装が大変そうでした。そのあたりの解決方法は考案されていますが、ハードウェアでの実装はまだまだ課題がありそうです。
光連続量計算
光量子ビット計算では光子をつかってブロッホ球上での情報の操作がメインの利用方法でしたが、光連続量計算も最近はよくソフトウェアとして利用されます。光連続量計算は、光の位相に注目し連続量を扱います。
参考
Photonqatで光量子計算 (量子テレポーテーション)
https://qiita.com/ryuNagai/items/91dc36eb1ebd870a5d76
連続量計算は、光量子ビットを用いたブロッホ球での情報操作ではなく、光量子モードを利用した位置xと運動量pを利用した計算となっていて、ビットのような01の2値エンコードではなく、|0>+|1>+|2>+...のように多値エンコードが基本となっています。
量子ビットでは、状態ベクトルは2^Nで表現されますが、量子モードではさらに厳しいD^Nで表現されるようです。ここでD値でのエンコードで量子モードを表現するということのようです。状態ベクトルがものすごい複雑になってしまいます。
光連続量はやはり量子ゲートで操作され、光連続量を操作するのに相当するゲートが用意されていて、量子ビットとはちょっと使いがってが異なります。ちなみに光量子計算で、量子ビット型のマシンのイジングモデルに対応するような物理モデルにボースハバードモデルというのがあり、マシンの計算原理によって最適化計算も解き方が異なりそうです。
光連続量計算シミュレータ
光連続量を扱う際には二種類のシミュレータを扱うようです。一つは簡易型のようですが、光連続量の性質をつかむにはものすごい重要でした。光量子計算はガウス計算と非ガウス計算があり、量子ビットにおけるクリフォードとノンクリフォードのようなものに対応しています。ガウス計算は効率的に計算ができるので、ガウス計算に特化したシミュレータを用意して簡易的に計算を行うことがあります。
一方で、本格的なシミュレータは、上記の多値のエンコードをカットオフで精度を制限し、計算をするものがあり、光子数基底と呼ばれる、1モードにどれだけ光子が存在しているかというものを扱うシミュレータとなっています。
参考
ボソンの生成/消滅演算子で記述される演算子による状態発展をコードに落とし込む
https://qiita.com/ryuNagai/items/df0b69565e4dc24fba62
光連続量計算の課題とガウシアンボソンサンプリング
光量子ビットにも相互作用の課題がありましたが、光連続量にも課題があり、やはり特定の量子モード型の量子ゲートの実装に課題があるので、根本は全く同じのようです。それでも現在光量子ビットではなく、世界では光連続量側の計算方式が注目されており、中国科学技術大学やカナダのxanaduなどは光連続量に近い方の計算を行っています。光連続量計算では、時間発展を利用したような本格的な計算も想定はされていますが、上記のゲート実装の課題があるようで、さらに別の特定用途計算に落ち着いているようです。
参考
連続量量子計算におけるQAOA論文の紹介
https://qiita.com/ryuNagai/items/fd0ca10a9141edff453d
その光を利用した特定用途計算がガウシアンボソンサンプリングです。
ガウシアンボソンサンプリング
ガウシアンボソンサンプリングの詳しい説明は、
参考
中国発の光量子計算による量子アドバンテージで用いられた手法の解説
https://blueqat.com/cc7a5408-5d18-4c4a-bd32-4d5306813760/d63e091c-427d-41f4-8715-26d2cc2a6cf9
光量子計算を使ってサンプリング問題を解くというもので、光連続量が基本となっています。そのため量子ビット型マシンにおける量子アニーリングに近いような特定の行列を設定して最適化問題を解くというような形になっています。
参考
Introduction to Gaussian Boson Sampling
https://blueqat.com/Devanshu%20Garg/2368d453-86f4-4d47-9ddc-5322ba2e9554
光量子コンピュータに向いている人も多い
光量子コンピュータの開発はあまり情報がないですが、着々と進んでいるようで、実際に見ていると量子ビット型のマシンよりも光量子コンピュータのほうが明らかに向いている技術者や研究者が、光量子コンピュータのことを知らずに道に迷っているのを見かけます。別に量子ビット型のマシンも話題的には派手なニュースが目立ちますが、技術的には成功しているわけではないので、光技術に興味がある技術者は素直に光の性質をベースとした光量子コンピュータに没頭したほうがいいと思いました。
以上です。
おまけ
僕は光量子計算はあまりよくわからないので光量子コンピュータを行う別の会社を作りました。