はじめに
企業が成長を目指すとき、短期的な売上を支える「受託」と、長期的な競争力を築く「自社開発」のバランスは常に議論の的になります。特に量子コンピュータのように、今後のIT産業全体の基盤となる可能性を秘めた技術分野では、この選択が企業の未来を決定づけます。本記事では、ビジネスマンの視点とエンジニアの視点から、その必然性を掘り下げます。
ビジネスマンの視点:成長戦略としての自社開発
1. 受託の「天井」と収益モデルの限界
受託は「工数×単価」で収益を得るモデルです。これは人員を増やさなければ売上が拡大せず、利益率も限定的です。規模が大きくなるほど固定費も増え、成長に限界が訪れます。
2. 自社開発は「資産」を積み上げる
自社で製品や技術を開発すれば、それは資産として残ります。特許、ソフトウェア、アルゴリズム、データベース――こうした資産は時間とともに価値が積み上がり、ライセンス収入やサブスクリプション収入といった「繰り返し得られる収益」を生み出します。
3. 量子コンピュータ産業の覇権争い
これからの量子産業は、半導体・通信・AIなどと統合され、巨大なエコシステムを形成します。もし基礎技術を外部依存にしたままでは、プラットフォームを握る海外企業に飲み込まれ、自社は下請けに追いやられる危険性が高い。ここで自社開発を強化することは、未来の覇権を狙うための必然的な一手です。
エンジニアの視点:技術と組織文化の成熟
1. 受託では「経験」は積めても「技術」は残らない
受託開発は案件ごとに技術を使い捨てにする構造になりやすいです。成果物は納品して終わり、自社にはナレッジが残りにくい。エンジニアとしては「経験値」は増えますが、社内に技術のストックが蓄積されないのです。
2. 自社開発は「試行錯誤」が可能
革新的な技術は、一朝一夕に生まれるものではなく、数えきれない失敗と改善の繰り返しから育ちます。受託では期限と仕様に縛られて挑戦が難しい一方、自社開発では自由度が高く、失敗を許容して技術を深掘りできる環境が整います。これが量子コンピュータのような基盤技術では極めて重要です。
3. 技術者のモチベーションと文化形成
エンジニアにとって、自分が作ったものが「世界に残る」ことほど大きなやりがいはありません。受託ではクライアントの成果物として外に出てしまいますが、自社開発なら会社と個人の成果が直結します。
さらに、自社開発の文化は挑戦・改善・共有を自然に生み出し、タフで高度な技術者集団を育てます。
量子コンピュータ時代に必要な組織像
- ビジネスマン視点では、長期収益モデルを描き、知財を守りながら新しい産業の中で主導権を握ること。
- エンジニア視点では、受託に縛られず試行錯誤を繰り返し、失敗から学びながら独自の技術を積み上げること。
この両輪が噛み合うことで、量子コンピュータを基盤とする巨大産業において存在感を発揮できる企業となります。
おわりに
受託を否定するのではなく、「未来に残すべき技術」は自社で積み上げるべきということです。
量子コンピュータが普及し、ハードからアプリケーションまで新しい産業が形づくられる時代。そこに向けて今必要なのは、外に出さない技術を社内に集約し、挑戦と改善を繰り返す「自社開発の文化」を築くことです。
それが、企業の成長を持続させ、社会に新しい価値を提供するための唯一の道筋なのです。