GM方式4K冷凍機+He3モジュールによるサブケルビン冷却
半導体量子コンピュータへの応用展望
背景
半導体量子ビット(シリコン量子ドットなど)は、超伝導量子ビットほど極低温(10〜20 mK)を必要とせず、0.3〜1Kでも動作可能な設計が進んでいます。従来の希釈冷凍機は大型・高価・複雑であり、研究開発の障壁でした。今後の量子プロセッサのスケーリングや産業応用を考えると、より小型・低コストでサブケルビン領域を実現できる冷凍技術が不可欠です。
技術構成
- GM冷凍機(4K級):圧縮機+ディスプレーサにより液体Heを使わず4K台まで冷却。CryomechやBlueforsの4Kクラスターが代表例。
- He3ソープションモジュール:活性炭吸着ポンプで減圧蒸発冷却を行い、0.3Kクラスまで到達可能。Chase Research社GL7などが市販化済み。
- 冷却能力:0.3Kで数十µW、1Kで100µW以上。半導体量子デバイスのゲート配線や小規模回路試験には十分。
- 運転形態:ワンショット運転(12〜24時間保持)または二系統交互運転による連続冷却。
性能と制約
- 到達温度:典型 0.3K(軽負荷で0.25K)。
- 冷却パワー:希釈冷凍機(数十µW@20 mK)に比べれば低いが、半導体量子ドット回路や小規模QPU検証には十分。
- 安定性:mKスケールの揺らぎがあり、制御系補償は必要。
- 利点:小型(ラック/卓上)、低コスト(従来の数分の一)、設置容易、省エネ。
既製品と新潮流
- Chase Research GLシリーズ:0.3K対応、半導体量子回路に実績。
半導体量子コンピュータへの意義
- リソース削減:希釈冷凍機は大型インフラ・高コストだが、GM+He3方式なら研究室レベルでも導入可能。
- 小型化と普及:0.3–0.5Kクラスの既製品が市場投入され、半導体量子ビット開発が一気に裾野拡大。
- 研究段階から量産試験へ:小規模モジュールで素子評価→拡張可能。製造装置と並列設置も現実的。
- blueqatの展望:2025年末から段階的にこの方式を導入し、半導体量子コンピュータ展示・製品化を本格化。研究開発から社会実装への橋渡しを目指す。
まとめ
希釈冷凍機に依存せずに0.3K級を実現できるGM+He3冷凍機は、半導体量子コンピュータを「研究室から産業」へ進める鍵技術です。小型・省リソースでサブケルビンを実現するこの流れは、かつて大型計算機がPCへと小型化した歴史を思わせます。
量子コンピュータの冷却技術もいま、大きな転換点を迎えています。