2019年に一足先に量子アニーリングの議論について結論付けたことがありまして、それからの業界内部の変遷をもとに、弊社が被った被害について簡単に説明したいと思います。
正直量子アニーリングの誇大広告のおかげでこの数年はかなりの業務時間を生産性のないところにとられ、貴重な時間と資金を投入し、迷惑をこうむっていました。それでもD-Wave社との関係、日本で頑張る人たちのために我慢していました。一部研究者主導という面もあり、弊社側が風評被害を受けることも多く、今回の件でかなりすっきり、助かりました。ガラケーにこだわってスマホに負けるの如く、海外との量子技術の競争の出遅れもこれによって大きく影響を受けています。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1906/03/news033.html
量子側の事情はかなりざっくりになっていますが、2021年7月段階でtwitterで出ているこのブログ記事に個人的に同意します。
https://tasusu.hatenablog.com/entry/2021/07/03/131243
組合せ最適化問題について
イジングモデルやQUBOという定式化に落とし込む、ソフト制約をいれないといけない、それによってラグランジュパラメータの調整がめんどいなどいろいろありますが、そもそも量子アニーリングの当初の高速性の程度は理想的な状態でもわずかばかりという結果になっているので、もともとの盛り上がりが演出されてしまっているということになります。個人的には組合せ最適化問題に特化という報道やセールスもありますが、そうではなく、量子計算機の一種なので、組合せ最適化問題に特化というよりもほかの用途があると思ってやっています。
値段が高い
そもそもある程度同じくらいに来たとしても値段が高くてビジネスユースには向きません。
再現性がない
工場で使う場合にラインを止めるわけにはいかないと思いますが、エラーが起きても理論的な再現性がありませんので、弊社は大手企業などとの工場生産最適は実績としてあるものの実用化は難しいと発表はしませんでした。
理論的に計算量は指数増大する
理想的な量子アニーリングでは、組合せ最適化問題の計算量は指数増大するというのを何度か指摘しているのですが、これは既存計算機と同じです。
課題解決方法は有限温度量子アニーリングのさらなる探求
研究ですので、課題は解決する必要があります。量子アニーリングの面白さは理論であって、有限温度での改善など理論的な面白さがあります。理論面、研究面の面白さをわざわざずさんなビジネストークのために台無しにされるのはもったいないです。
量子アニーリングの理論を使っているのは2,3社のみ
カナダのD-Waveマシン、NECの量子アニーラ、日立のCMOSアニーラの一部(たしか)などが理論的にきちんと量子アニーリングをフォローしていますが、その他は量子アニーリングとは全く関係ないと思います。東芝さんのは光量子がベースとなっているので、量子アニーリングではないですが、量子着想といってもいいかもしれません。
なぜこんなことになってるのか
お金のからむ大人の事情があるからです。生活のある人もいるのでビジネス界は強くは言えません。
量子をきっかけに既存の数理最適化の世界にいけばよいか?
基本的にはすでに大手は数理最適をもともとやっていますし、数理最適化や組合せ最適化問題によって得られるのは効率化による利益であって、大きなビジネスほど効率化による利益が上がりますが、中小企業では改善できる部分はあるにしろ、数理最適を導入して改善できる範囲である、5-15%程度の実行ではあまり利益が出ません。
既存数理最適化ソルバーや研究者の領域は量子研究では全く歯が立たないというのが正直な感想です。
今後改善される余地がある
余地はあると思いますが、広い世界から10年近くみんなで探したけど見つからなかった難しい宝を探すというのはとても大変ですが、やりがいがあると思います。
量子コンピュータの最適化計算は量子アニーリングだけではない
量子コンピュータにもさまざまは離散最適化解法があります。今後は最適化問題を解きたい際には、新しいほかの理論との速度比較や改善が進むと思います。
QAOAも正直ちょっと下火
量子コンピュータを利用した組合せ最適化解法で、ゼロ温度系の理想的な量子断熱計算を用いたQAOAも正直ちょっと下火です。個人的には大好きなものなのですが。
実機の実装が理論と違うところも仕方ない
量子アニーリングの理論と実機の実装が異なってしまうというのも仕方ないですが、量子コンピュータ業界は達成が極めて困難である誤り訂正に取り組むなど、かなり愚直にお金をかけてやっているので、その点に関して実機を言い訳にごまかしはあまりしないで誠実に進んでほしいです。
いつかは炎上すると思ってました
量子アニーリングは状況が厳しいので、投資回収をしようとする人たちが無茶することで、いつかはこうなるだろうなとみんな思っていました。ただ、大人の事情が絡むので、簡単には状況は改善されないと思います。ビジネスの世界で生きてきて、中長期にビジネスをするには信用が大事だと感じていますが、ビジネス界を荒らしても研究に帰れるので、荒らしていくだろうなとは薄々感じていました。僕はだいぶ量子アニーリング熱が今回の件で冷めたのでやるのは最低限にしようと思いますし、blueqatからもツールは減らそうと思いました。以上です。