こんにちは、2022年11月17日です。ある程度量子コンピュータの研究開発が一段落してきました。いろいろな文献や自社でのアルゴリズムの調査をしたうえでのいったんの結論を出したいと思います。
1.NISQでの量子化学と組合せ最適化問題は崩壊
すでに多くの企業様が取り掛かって結論が出ている通り、量子化学計算と組合せ最適化問題はほぼ解くことができません。理由は量子回路が長いからです。NISQでの量子回路の長さが致命的ですが、量子化学計算や組合せ最適化問題(量子アニーリング・量子断熱計算)をNISQで解こうとする場合、ansatzと呼ばれる量子回路が必要になりますが、それを理論的に構築するとかなり回路が長くなりますし、それほど精度もあがりません。なので、実質的にはもともと解けなかったという結論に達するかと思います
2.ハードウェアの限界
ハードウェアの限界がかなりきついです。実質的に今業界でまともに使える量子ビット数はおそらく20-27くらいかと思います。これは普通のコンピュータで十分にエラーなしで計算できる範囲です。ニュースは派手ですが、量子回路計算&きちんと計算結果が出るという条件だとニュースのような派手な量子ビットではなく、実行値は数年前とあまり変わらない20-30量子ビットの範囲に収まっています。
3.接続が少なく、浅い回路が必要
ディープラーニングなどのようにディープな回路は実行ができません。ので、浅い回路が必要になります。さらに量子ビット同士の接続も近接に制限されます。全結合マシンもありますが、量子ビットが極めて少ないため、あまり参考にはなりません。浅い回路・近接接続だと根本的に量子もつれはかなり限定的になります。
4.ハードウェア依存の量子アルゴリズム
そうなると接続が限られ、量子もつれが限られた浅い量子回路が優勢になってきます。なので、最近はかなり限定的な計算のみができるようなものになってきています。
5.FTQCは実現のめどがまだない
では、NISQがだめならFTQCとなりますが、現状で言うと日本も動く量子コンピュータの提供ができていませんし、FTQCは誤り訂正を含めてとても実現のめどが立っていません。アルゴリズムも実機がなければ本当に動くかわからないのでシミュレータ中心となりますが、やはり実機でないと評価はされないと思います。
6.まとめ
一から出直して10年基礎研究を地道にやるしかなさそうです。
弊社側の対応として、
1.量子アニーリングは量子インスパイアを使う。ベクトルアニーリングを使います
2.量子化学計算はFTQC向けのQPEを研究用に採用
3.量子ゲートでの、組合せ最適化はXYmixerは注視しながら、今後はVQE中心で実行
4.中性原子やイオントラップなどの最新マシンを使う
5.GPUのテンソルネットワークシミュレータで大規模量子計算を実行
などとなっています。量子アニーリング以外は研究色がより一層強くなりそうです。