現在世界中で多くの種類の量子コンピュータが開発されています。その中でも現在注目度が上がっているのが中性原子とシリコンです。
なぜシリコン量子コンピュータが注目されているのか、下記の論文を参照しながら簡単にみてます。
Silicon Quantum Electronics
Floris A. Zwanenburg, Andrew S. Dzurak, Andrea Morello, Michelle Y. Simmons, Lloyd C. L. Hollenberg, Gerhard Klimeck, Sven Rogge, Susan N. Coppersmith, Mark A. Eriksson
シリコン技術は過去半世紀にわたりマイクロエレクトロニクスの進歩を支えてきましたが、最近では、スピンの量子特性を利用した新世代のデバイスにおいても優れたホスト材料であることが明らかになっています。弱いスピン軌道相互作用や核スピンを持たない同位体の存在により、シリコンはスピン制御に理想的な環境を提供します。この特性と従来の製造技術の組み合わせにより、量子コンピュータの分野でシリコンを活用する研究が活発に進められています。
特に現在は量子ドットと呼ばれる半導体製造技術を使用し、電子を特定の領域に閉じ込める方式が注目されています。
シリコンにおける量子ドットの研究は、1990年代のクーロンブロッケード現象の発見から始まり、近年では単一電子を占有する量子ドットやダブル量子ドットの開発へと進化を遂げています。量子ドットは、電子が量子力学的に閉じ込められたナノスケールの構造であり、その形成には電場や材料界面、さらには個別原子の配置などの技術が用いられます。これにより、ソース、ドレイン、ゲート電極が接続された単一電子トンネリングデバイスが構築可能となり、電子の挙動を量子力学的な観点から詳細に研究するための基盤が整備されました。
シリコンのバンド構造とバレー縮退の特性は、量子ドット内での電子の波動関数の制御やエネルギー状態に直接影響を与えます。この特性を活用して、量子ドットにおける単一電子の占有状態やトンネル効果を精密に測定する技術が発展してきました。特に、量子ドットの電子占有状態を操作する技術は、スピン状態を制御可能にするスピン量子ビットの実現に向けた重要なステップを形成しています。
シリコン量子ドットは、長いスピンコヒーレンス時間と低いスピン-軌道相互作用を特徴とし、量子計算に適した環境を提供します。しかし、電子の閉じ込めやトンネル結合の精密な制御、さらには量子ドット間の相互作用を適切に調整するための技術的課題が依然として残されています。それにもかかわらず、シリコン量子ドットは、その特性と応用可能性から、量子情報処理の基盤技術として期待されており、量子デバイスのさらなる進化を支える重要な役割を果たしています。
現在の進捗では、この量子ビットとして利用する量子ドットデバイスの安定作成が世界中で始まっており、その量子ドットを安定して制御して読み出すことにより量子コンピュータとして利用することができます。
制御や読み出し方式が確実には決まっていないので世界中で効率的な制御方法を模索するための研究開発が過熱化しており、半導体製造設備を利用した汎用量産化が目指されています。