近年、量子コンピュータの実現に向けた研究が加速しています。光を用いた量子計算もいくつかの企業で注目されています。 今回は、その中でも特に「フュージョンベースの光量子計算(Fusion-Based Quantum Computation, FBQC)」と呼ばれるモデルについて解説します。
参考にするのは、PsiQuantumという企業のこちらの論文です。
Fusion-based quantum computation
フュージョンベースの光量子計算(FBQC)とは?
フュージョンベースの光量子計算(FBQC)は、従来の量子計算の方法とは異なり、「量子ゲート」ではなく「測定」を主体とする計算モデルです。
超伝導などの量子コンピュータでは量子状態は0からスタートし、そちらに計算を行っていく現在のコンピュータに近い形です。光量子コンピュータで最近はやっている測定型は先に大きな計算の材料を作っておき、そこから少しずつ測定を行なって状態を壊していく測定型量子計算があります。
PsiQuantumのフュージョンベースはその測定型の一種ですが、一番最初に大きな計算リソースを作るのではなく、小さいリソースを作ってからそれを融合させて大きな計算リソースを作るという点で少し違います。
具体的には、以下の2つの操作を繰り返しながら計算を進めます。
リソース状態の生成(Resource State Generation)
- 量子もつれを持つ「リソース状態」を作成
- 量子コンピュータが計算を実行するための「材料」になる
フュージョン測定(Fusion Measurement)
- リソース状態の一部を「融合(fusion)」させるように測定
- これにより、新しいエンタングルメント(量子もつれ)が作られる
- 結果に応じて、誤り訂正を行いながら計算を進める
FBQCでは、事前に準備した「リソース状態」に対して測定を繰り返すことで、計算を進めるという特徴があります。
フォトニック量子ビットは「測定」に適している?
光子(フォトン)を使った量子ビットは、
- ノイズに強い(外部環境の影響を受けにくい)
- 長距離通信が可能(光ファイバーでそのまま送れる)
- 測定が高速(ナノ秒オーダーで測定可能)
という特性を持ちます。 この点はあまり詳しくないですが、測定をベースに計算を行なってもあまりオーバーヘッドがないようです。
スケーラブルなアーキテクチャ
一般的な量子コンピュータ(例えば、超伝導量子ビット)では、大規模化するほど物理的な接続が複雑になり、エラー率が増加します。
しかし、FBQCでは:
- リソース状態は小規模な単位で繰り返し生成できる
- 融合測定によって計算を進めるため、物理的な接続が不要
- シンプルな構成でスケールアップが可能
これにより、大規模な量子計算にも対応できる可能性があります。
フォールトトレラントな量子計算が可能
FBQCでは、測定結果を「誤り訂正」に活用しながら計算を進めることが可能です。
具体的には:
- 測定の結果を「シンドロームグラフ」として整理
- エラーが発生しても、誤り訂正によって影響を抑える
エラーの影響を抑えながら計算を進められるため、信頼性の高い量子コンピュータの構築が可能になります。
デュアルレール量子ビットとTゲート
本論文では光量子計算のうち、連続量なのか、離散量なのか気になっていましたが、デュアルレール量子計算の記述がありました。また、ノンクリフォードの記述もあったので、基本的には量子ビットでの計算を考えているのではと思いました。
結構細かいことは書いてありましたが、基本的には小さいリソースを作って、測定を通じてそれをつなげて大きな計算をするという理解で良さそうでした。以上です。