お手製データセンターを作るのは大変だけど面白い話
これまで、GPUの運用を自宅の近くや借りたオフィスで続けてきた。東洋経済やWBSにも取り上げられたことがあるが、その頃はまだ「個人で頑張るハードウェア運用」レベルだった。それが最近になり、ものすごく大きな場所を確保でき、本格的なデータセンターを作るフェーズに入ってきた。
これはまさにスケールアップの瞬間だが、やってみると データセンターを作るのは想像以上に大変 だと痛感する。GPUを並べるだけではなく、そもそも 「場所の確保」「電力の確保」「廃熱の設計」「サーバーラックの設置」「ネットワークの配線」「電源コードの経路設計」 など、あらゆるインフラをゼロから考える必要がある。そして、サーバーを置いたら終わりではなく、OSのインストールや各種ミドルウェアの準備、実際のデプロイ作業が山のように待っている。
さらに、これまでは主に 生成AIや量子コンピュータ向けのシミュレーションを回すGPUサーバー を想定していた。しかし、クラウドとして提供するとなると、当然ながら ウェブサーバーやDB、ロードバランサー など、あらゆるサービスを構成する多様な要素が必要になってきた。気づけば、ただの計算インフラではなく 「クラウド全体を構築する」仕事 になっていた。
大規模な場所を確保するということ
小さなオフィスでGPUを運用しているうちは、ラックに並べればなんとかなった。しかし、大きな場所を確保すると、物理的なスケールが一気に変わる。
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郊外に行くのが大変
大きな場所を確保しようとすると、当然ながら都心ではなく郊外になる。今までオフィスや自宅で運用していたのとは違い、行くだけでも時間がかかるし、ちょっとした作業をするのにも移動が発生する。
「ちょっとサーバーの調子が悪いから見に行くか…」が、片道2.5時間以上の移動付き になる。 -
電力の確保が大仕事
GPUをフル稼働させるには電力が不可欠。オフィスの電源ならせいぜい数kWで済んでいたが、大規模化すると数百kW規模になり、契約変更や協議などが必要になる。
さらに、電気料金の計算がシビアになる。特に最近は電気代が高騰しているので、消費電力の管理がめちゃくちゃ重要。 さらに限られた電力のうちで設置できるGPUの種類となるとそれなりに強力で電力消費が効率的なものは高価になる。 -
廃熱問題が次元が違う
GPUは熱を大量に発するため、冷却が必須。小規模ならエアコンを増やすくらいで済むが、規模が大きくなるとそれでは到底足りない。
「この部屋は冬でもサーバーの熱で夏」状態を超えて、「建物全体が温室効果」になるので、排熱設計を真剣に考えないといけない。水冷?それともエアフローを徹底?なかなか悩ましい。 水冷の場合でも最近流行りのドライクーラーの場合には結局排熱が近くになるので考慮しなくてはいけない。
クラウドを作るということ
これまでは「計算資源としてのGPUサーバー」にフォーカスしていたが、大規模化すると単なるGPU運用では済まなくなる。
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ウェブサーバー & DB も不可欠に
AI関連の処理だけでなく、ユーザー向けのアプリケーションを提供するとなると、ウェブサーバー、DB、ロードバランサー などの役割が必要になる。
結果、クラウドサービスの設計が 「ただのサーバー運用」から「フルスタックのクラウド構築」 に進化した。 -
スケーラビリティの問題
計算リソースだけなら、追加のGPUを増やせばいい。しかし、クラウド環境となると、負荷分散、ストレージの冗長化、ネットワークの最適化 なども考えなければならない。
これまでGPUを動かすだけだったのに、気づけば データセンターの管理者 & クラウドアーキテクト になっていた。
面白さと大変さ
こうして データセンターをゼロから作る というのは、間違いなく大変な仕事だ。ただし、その分、得られるものも大きい。
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ハードウェアとソフトウェアの両方を極める機会
ただのGPU運用ではなく、物理インフラ・電力・廃熱・ネットワーク設計 から、OS・ミドルウェア・クラウドサービスの管理 まで、すべてのレイヤーに関わることになる。
「データセンターを作れる人材」はそう多くないので、この経験自体がものすごく貴重。 -
スケールの大きさがワクワクする
小規模な運用から、本格的なクラウド基盤を持つフェーズに進化すると、ビジネスの規模も変わる。
これまで「社内の計算インフラ」だったのが、「外部にも提供できるクラウド」に変わり、可能性が一気に広がる。 -
自分で作ったインフラで新しい技術を試せる
これが一番面白いポイント。クラウドを持つことで、新しい量子コンピューティングのシミュレーション環境を作ったり、大規模なLLMのトレーニングを試したり できる。
既存のクラウドに頼るのではなく、自社のクラウドで自由に試せるのは、技術者として最高に楽しい。 また、コスト感覚もつく。市場で提供されている価格以下のものを安定して自分の範囲内であてがうことができる。
まとめ
データセンターをゼロから作るのは、とにかく大変だが面白い。
場所の確保から始まり、電力・廃熱・ネットワーク・ハードウェア・ソフトウェアまで、考えるべきことは山ほどある。
しかし、その分 技術的な学びが多く、ビジネスのスケールも大きくなる。
「GPUサーバーを動かす」だけではなく、「クラウド全体を設計する」というチャレンジになってきた。
今後、このデータセンターを活用して より高度な量子コンピューティングやAIの活用を進めていきたい。
そして、苦労話もネタにしつつ、新しい技術の可能性を探っていく予定だ。