D-Waveが発表した「Proof of Quantum Work(PoQ)」によるブロックチェーンの研究成果が話題を呼んでいます。この記事では、その背景や技術的な核心を、量子コンピュータや量子アニーラならではの特性にフォーカスしながら解説します。
Blockchain with proof of quantum work
こちらの査読なしのプレプリントでは、先日のD-Waveで行われた量子シミュレーションの結果を利用した量子ブロックチェーンが実装されています。こちらで簡単に説明していますが、これまでの最適化計算ではなく、量子シミュレーションと呼ばれるタイプのものです。
[他社レビュー] D-Waveが示した「量子超越」──最適化から量子シミュレーションへ
今回はこの量子シミュレーションの量子超越を利用しながらブロックチェーンを4台のマシンでつくったということで、内容を詳細にみてみます。実際には結構量子アニーリングの枠を超えて、実際の量子ゲートに近い形で提案が進んでいるので、量子コンピュータの計算をきちんと理解していないとなかなか内容を掴むのは難しそうでした。
PoQとは何か?PoWとの違いは?
PoQは、従来の「Proof of Work(PoW)」に代わる量子コンピュータを使った新しいコンセンサスアルゴリズムです。
- **PoW(例:ビットコイン)**は、ハッシュ関数の難問を解くために膨大な電力と計算リソースを消費します。
- PoQは、量子コンピュータでしか実行できない問題(例:イジングモデルの量子シミュレーション)を解くことを“仕事”の証明とする方式です。
これにより、消費電力を最大1,000分の1に削減できる可能性があり、環境負荷の大幅な低減が期待されます。
なぜイジングモデルなのか?
D-WaveのPoQでは、量子ハッシュ生成に**スピンガラス(イジングモデル)**の量子相転移を利用しています。
▷ イジングモデルの特徴:
- 多数のスピン(±1)を相互作用させた物理モデル
- 組み合わせ爆発的な複雑性を持ち、古典計算機では大規模なシミュレーションが非常に困難
- 量子アニーリングを使えば、この複雑系のシミュレーションを実機で実行可能
実験のポイント
D-Waveは、カナダとアメリカに分散した4台の量子アニーリングQPUを使ってPoQブロックチェーンを実験的に構築しました。重要なのは以下の点です:
- 各QPUが独立に量子ハッシュを生成・検証し、ブロックチェーンとして安定動作
- 実験では、数千ブロックのブロードキャストと数十万回のハッシュ検証が行われた
- 使われた問題は3次元スピンガラスやバイクリック構造で、構造的に古典的な予測が困難(直前の量子超越論文のシミュレーションを利用)
また、古典ハッシュ(例:SHA-256)も併用しており、量子ハッシュはPoQのための専用構成になっています。
なぜPoQがブロックチェーンに有効なのか?
PoQは、次のような利点を持ちます:
- マイニングのエネルギーコストを大幅削減(D-Waveではわずか0.1%が電力コスト)
- 古典では模倣できないスプーフ耐性
- 複数QPU間でハッシュ整合性が確保でき、フォークも制御可能
今後、量子インフラが整備されれば、電力の安い地域ではなく“量子技術を持つ国”がマイニング拠点になる未来もあり得ます。
まとめ
PoQブロックチェーンは、量子計算の現実的応用の一つとして有望です。
特に、イジングモデルの量子シミュレーションが古典計算で難しいという点が本技術の鍵であり、これを利用することで**古典計算機では検証困難な“量子的な証明”**が成り立つのです。
D-Waveによるこの実証は、量子コンピュータが「研究」から「社会実装」へと進みつつあることを象徴しています。
ただ、反論論文ではテンソルネットワークの利用できシミュレーションできるという意見もあるので、GPUを繋げると解けてしまう可能性もあります。。。