久々に興奮しました。IonQからハードウェアの新技術、Reconfigurable Multicore Quantum Architecture(RMQA)が発表されました。
https://ionq.com/news/august-25-2021-reconfigurable-multicore-quantum-architecture
発表されたばかりの技術ですが、このハードウェア技術のソフトウェアに与える影響を考えてみたいと思います。今回のRMQAはリリースを見ただけですが、ソフトウェア側からの視点でどこに有用性があるのかを見てみたいと思います。
1,量子ビットが単純に増える
2,機械学習のような構造化された量子回路に利用できる
3,多くの量子ビットがあっても、遠距離の量子もつれが比較的簡単につくれる
イオントラップは原子をイオン化したイオンを量子ビットとして計算に利用します。利用するイオンは製造誤差がないので、量子ビットのばらつきが小さくとてもエラーがすくなく精度高く計算ができます。今回のRMQAは16量子ビットのチェーンを一つの塊として準備し、塊同士を連結させて32量子ビットの塊にし、その32量子ビット同士で接続数を多く保ったまま計算し、そしてまた16量子ビットのチェーンに戻して計算を行います。ここですごいのは、32量子ビットのチェーンができるということです。次世代型のIonQのマシンでは32量子ビット全結合がアナウンスされており、量子ボリュームは驚愕の400万越えが期待されています。これは超伝導のIBM128、イオントラップのハネウェル1024という量子ボリュームをはるかに超えるものです。
32量子ビットの全結合はものすごいことで、実質的にこれを超える接続数の量子コンピュータを作ることはできません。超伝導やシリコン量子ビットで同様の計算を行う際には、2量子ビットゲートを駆使し、swapゲートを作り、量子ビットの状態を入れ替えて結合数を補うという力業が必要になりますが、現状は2量子ビットゲートのコストが高く、実際には計算ができるようになるはまだまだ先です。2021年現在で32量子ビット全結合はとんでもない性能となります。
また、その32量子ビットが固定ではなく、可変となっている部分がポイントです。2018年には、IonQは79量子ビットの計算や、160量子ビットのイオンの作製をアナウンスしています。見方を変えればこれまで量子ビットが平面上に固定されていたユニットセルの考え方を、イオンにも導入したとも考えられます。
https://ionq.com/news/december-11-2018
今回は16量子ビットのチェーンが4つですが、この16量子ビットのチェーンをたくさん増やすことによってワンチップ上にたくさんの量子ビットを準備しながら計算する量子ビットを選びながら32に結合して計算、また離して別のグループと計算という形に。単純に今後この16量子ビットのチェーンを何グループ作れるかによって量子ビットの総数を大幅に増加させることができます。単純に100量子ビットごえが確実にできそうな気配がします(個人的意見です)。
次に、ソフトウェアですが、これは32量子ビットの全結合もしくは多結合が効いてきます。私たちがとりかかっているアプリケーションである最適化計算に利用するQAOAや、特に量子機械学習は接続数が重要になります。また、私たちが採用しているテンソルネットワーク構造は量子回路の計算する順番が重要となります。今回のRMQAとテンソルネットワークはとても相性がよさそうです。テンソルネットワークで主に利用されるのがMPSという構造とMERAという構造です。MPSは隣接の量子ビットとの結合次元によって量子もつれを考えますが、量子回路では隣接する仮想の量子ビットの間で量子ビット数nに対して
量子回路に相性の良い量子機械学習の回路をうまく組むことでより効率的な量子ビットの多い量子回路などが作れるので、量子機械学習にとってはとても有用な技術だと思います。
重要なのは、隣接で伝搬しながら遠距離の量子もつれも作れますが、32量子ビットの全結合を利用することで、遠距離の量子ビットにも比較的少ない操作回数で量子もつれが作れることです。16量子ビットのチェーンが4つあったとして、64量子ビットの末端同士の量子ビットもかなり少ない操作回数で量子もつれを作ることができます。
量子コンピュータのハードウェアの考え方を根本的に変えかねない新しい技術なのでとても期待したいと思いますし、ますます量子機械学習がはかどりそうです。以上です。