量子コンピュータと聞くと、「大学や研究所で巨大な装置を扱っている、まだ遠い未来の技術」といったイメージを持つ方が多いかもしれません。実際、これまでは研究機関が主導し、補助金や税金で支えられた研究用のシステムが中心で、商業的な活用は進みにくい状況でした。
しかし今、世界では大きな転換点が訪れています。それが 「半導体量子コンピュータ」 です。これは従来の研究用装置ではなく、半導体製造ラインを使って量産可能な量子チップを基盤とするアプローチです。つまり「研究室の特別な装置」から、「工場で量産できる半導体」へとシフトしつつあります。
この変化が重要なのは、半導体という産業の巨大さにあります。AIや生成AIの爆発的な普及が示すように、半導体は今や世界経済の中心にあり、素材メーカーから製造装置、ファウンドリ、ソフトウェアまでが連動する巨大な生態系を形成しています。そこに量子が統合されると、性能の伸びや市場拡大のスピードは、これまでの研究型量子コンピュータとは比べものにならないほど加速するでしょう。
すでに米国や台湾ではIntelやTSMCといった大手企業が動き始め、量産技術の確立に取り組んでいます。これにより、薬の開発や新素材の探索、物流や交通の最適化、AIとの組み合わせによる新しいサービスなど、幅広い分野での実用化が現実味を帯びてきています。
一方で、日本ではこの動きが十分に伝わっていません。日本の強みは素材や製造装置にはあるものの、ロジック半導体の基盤が弱いため、量子半導体の商業的インパクトを実感しづらいのです。そのため、投資家や事業会社の反応も海外に比べると遅れがちです。
しかしこれは裏を返せば、大きなチャンスでもあります。株式市場を見ても、半導体関連企業の業績や株価はAI需要と連動して動いており、量子半導体が加われば同様に広範な波及効果が起こるのは確実です。素材・冷却技術・測定機器などのニッチ分野にも新たな需要が生まれ、次世代の主役が登場してくるでしょう。
大切なのは、「研究主体の量子」と「商業主体の半導体量子」を区別して理解することです。前者は学術的な成果に強みがありますが、後者は産業と投資のサイクルに組み込まれることで一気に成長します。個人投資家やアーリーアダプターはすでに敏感に反応していますが、日本の大手VCや企業はまだ動きが鈍いのが現状です。
これから訪れる大きな波に向けて、社会も、産業も、投資家も、正しく構えを整える必要があります。半導体量子コンピュータは「次のAI」と呼んでもよいほどのインパクトを持ちうる存在であり、これを過小評価することは、日本の未来にとって大きな機会損失となるかもしれません。