量子コンピュータの開発は、長らく大学や研究機関を中心に進められてきた。そこでは基礎物理の検証、量子状態の安定化、誤り訂正の理論など、根幹を支える学術的な研究が重視されていた。しかし、ここにきて構図が明確に変わりつつある。「研究室 vs 産業」――量子コンピュータが実験装置から製品開発の領域へと踏み出そうとしているのだ。
特に注目すべきは、半導体技術を応用した集積化・微細化の本格的な進展である。これまで量子デバイスは、研究装置として動作させるための“大型で繊細なシステム”だったが、産業が得意とする微細プロセス技術を導入することで、量子ビットの集積度や製造精度は飛躍的に向上する見通しだ。
一方で「制御」が依然として課題として挙げられる。確かに、微細化によって配線やノイズ、熱管理などの制御難度は高まる。しかしこれは、半導体産業が長年取り組んできた微細集積化に付きものの課題であり、克服の経験を蓄積してきた領域でもある。むしろこれまで量子分野では、微細プロセスを本格的に使いこなした産業水準での量産設計や歩留まり向上の開発が十分には行われてこなかった。
今後は、歩留まり・製造精度・信号制御の安定性など、既存の研究開発とは桁違いの性能が求められ、同時にそれを実現できる体制が整いつつある。量子コンピュータは、単なる学術実験ではなく、「半導体産業が本領を発揮する次の集積テクノロジー」として成熟期に入り始めている。
量子の時代は、研究室の外で育ち始めた。これからは、理論と製造技術、物理とエンジニアリングの融合が真の鍵となる。