自分自身を振り返っても好き勝手やってきた17年だったと思います。しかし、今になってもっと上が見えてきました。量子ベンチャーという難しい環境を10年維持してきました。弊社よりも売上規模が大きい量子ベンチャーもたくさんありますが、おそらくどこも研究開発先行の赤字に苦しんでいることでしょう。
赤字を出しながら研究開発の資産を維持しながら上に上がるタイミングを見計らっている企業や株を手放したいと考えている人など様々いると思います。自社ではとりあえずやりたいことはだいたいできたので、次の目標に向かってどんどん新しいことをしたいと思っています。
自分が10年前に量子を始めた頃は全然誰もやってなくて、やりたい放題でした。その後もあまり量子詳しくなくても色々なことができました。米国大手の企業との連携などもできましたし、博士も持ってなくてもそれなりに研究や開発ができるベンチャーとして業界で名を馳せることもできました。
しかし、2025年の現在はそうはいかないです。量子業界も参入プレイヤーが増えてきて、相対的に初期の量子ベンチャーは品定めされるように。弊社内部にはあまり量子に詳しい人もいませんし、若いチームとしての経験不足が露呈し始めてきました。逆に年齢層の高い経営やメンバーは若いメンバーについていけなくて転職や離職、などが目立ちました。現在のblueqatは若くて元気ですが、相対的に経験不足で、実力はあるものの、世の中には多くの実力ある人がいるように、特別な量子ベンチャーではなくなってきています。
2020年のように、まだおおらかな時代ではなく、米国や中国が莫大な予算を確保して多くのタレントを育成している時代ですので、それなりのチームとしての成果を出すためには莫大な努力が必要となりました。今の日本のおおらかな雰囲気では、なかなかそうした競争に勝ち抜く人材は生まれづらくなっている上、少子高齢化でますます難しくなっています。
blueqatの特色は自分自身の好みで決まっているので、AIや最適化を中心として事業を組みました。正直量子計算は量子化学や量子物理のような量子シミュレーションの方がやりやすく、古典世界での最適化やAIは相性があまり良くありません。近年NISQやアニーリングの実用化は厳しいというのがわかってきてからはさらに事業での収益化は遠のいた気がします。
現在一番力を入れているのはハードウェアです。現在の量子コンピュータは100とか1000量子ビットですが、そんなのでは全く足りず、100万量子ビット必要ですが、今のところ中性原子を加えても実現できそうな雰囲気がありません。そんなの面白くないので、できそうな半導体をしています。
半導体はお金もかかるし、実装面など結構難しさがあります。現状はまだ半導体も立ち上がったばかりなので、作れるという面白さがあります。また、現状では上位の最適化や機械学習、量子シミュレーションを含むアプリまでの中間層の研究開発などエンジニアリングにも力が入るすごい面白い領域です。
FTQCを目指すために誤り訂正なども実装が必要ですが、我々が今進めている半導体分野での特定の理論に関して誤り訂正もどうやって実装すればいいのかまだ見当もつかないです。
そうした新しいハードウェアやOSと呼ばれるような処理系統を作るために道のりの長い作業をしています。どう見ても利益は出なさそうですが、好奇心優先で行っています。
また、現在データセンターも作っています。ラックを数百数千と並べてサーバーを管理します。ネックになるのは電力ですが、ある程度の資金も必要です。そんなにたくさんのサーバーを管理した経験もないので、ちょっとずつ広げていますが、早晩多くのサーバーを管理することになりそうです。量子コンピュータもその中に加わると思います。
そうした非常に長く難しい道のりですが、ロードマップは明るく、楽しいものなので全然頑張れます。しかし調達だけではなかなか理解されない、収益も返せるかどうかは不明なので、並行して収益化できそうな事業も立ち上げる必要があります。
収益性は別にして、事業の課金方式ですが、とにかく量子コンピュータを作らないといけないので少しでも時間が作れるように、SaaS方式としました。どうなるかわからないですが、これまでの受託中心もしくは受託+クラウドサービスという業態を一旦捨ててでも新しい挑戦をする必要があり、モチベーションはもちろん新しい量子コンピュータを作ることです。
blueqatの社長は学部卒だし、そんなに大学色も強くなくて、適当な人だからあまり頑張らなくても入社できると思う人も多いようです。昨年末ごろからそういう適当な採用は一切無くして、きちんと実績と実力を見ることにしました。面接も複数回見ます。また、必須なのが英語で、きちんと英語ができるかどうかが大事です。社員に積極的に海外出張にも行ってもらい成果を出せました。国内では東大をはじめ、海外のハーバード、インド工科大をはじめとして世界各国の優秀な人材を集めはじめました。研究者もきちんと大学と兼業をしてPhDを持っていてきちんと論文を出している人を採用しました。研究開発にしてもクラウドサービスにしても、営業にしてもきちんとわかっている人を採用しはじめたため、満足できるレベルでの研究開発や営業活動を推進しています。
今後は、実力主義で全体のレベルを上げ、知財としての特許や論文をハイレベルでやっていけるようにしています。少数精鋭の分、給料も少しずつ改善し、minimumの600万からを維持しながら少しずつ上限を上げています。その代わり求められるものは大手の最先端と変わらないものを求めていてベンチャーの厳しさを感じるようになってきています。
受託では人数を増やせば売り上げは一見上がったように見えますが、いっさいビジネスのスケールがありません。いくら人数を増やしても投資に見合ったものは得られず、売り上げは頑張って少ない資本金で回してつけてきましたが、億単位の売り上げを受託でつけたところで、量子ベンチャーとして我々が目指すところには到達しないことが分かり、止めることにしました。当面の売り上げは犠牲にして今後は成長性を重視してビジネスモデルを大きく変えます。
半導体の開発はタフなので、逆算して企業価値も上げる必要があります。株の希薄化をせずに株価を上げて調達する必要があります。一般的にはそれは難しいのですが、量子業界は需要があるので頑張ればそれもいけるんではと昨年は自信もつきました。こういう無茶な局面では常識的なベンチャーよりも我々のような個人プレーのめちゃくちゃなベンチャーの良さを出せるかなと思っています(投資家からしたらたまったもんではないですが)。
とにかく新しいものをどんどん作っていかないといけないので、溢れるアイデアで新しいものを自分で毎日作っている人でないと今後のblueqatではやっていけないのではと思っています。新しい半導体、新しい理論、新しいサービスなど必要以上のクリエイティビティと最先端の理論と組み合わせて実行し、米国の大手にも負けない組織を個人の力を中心に構築することをもっと目指します。
自分自身をもっと鼓舞していかないとなかなか量子ベンチャーとしてブレイクスルーを起こすような大きなことはできないなと思い、必要以上に頑張りたいと思います。