こんにちは、米国の冷却原子マシンに興味があり論文を読んでみます。数回に分けて概要をお伝えしようと思いますが、今回はざっくり概要をお伝えします。今後はソフトウェアや装置のより詳細などをお伝えしようと思います。
リファレンス
Quantum phases of matter on a 256-atom programmable quantum simulator
Sepehr Ebadi, Tout T. Wang, Harry Levine, Alexander Keesling, Giulia Semeghini, Ahmed Omran, Dolev Bluvstein, Rhine Samajdar, Hannes Pichler, Wen Wei Ho, Soonwon Choi, Subir Sachdev, Markus Greiner, Vladan Vuletić & Mikhail D. Lukin
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03582-4
https://arxiv.org/abs/2012.12281
プログラマブルな二次元リュードベリ原子
2021年米国のボストンのスタートアップQuEraが新しいマシンを発表。日本の楽天なども出資をしているということです。
米QuEra社、256 量子ビットの量子シミュレータを発表、1700万ドル(約20億円)の資金調達
https://blueqat.com/worldnews/33b0f4bb-ee25-47c0-8333-0f5f9daf43be
この装置の概要について論文から見てみたいと思います。
引用:https://arxiv.org/abs/2012.12281
まずこの装置は、空間位相変調器(Spacial Light Modulator / SLM)と呼ばれる、光の空間的な分布を電気的に制御する機械を使って、真空中に2次元の光ピンセットと呼ばれるレーザーでの操作を行える状態にしているようです。
SLMについては、
https://www.symphotony.com/products/ultrashort/ultrashortmenu/slm/
こちらが参考になりました。
そして、最初は磁気光学トラップ(Magneto-Optical Trap)と呼ばれる手法で、リュードベリ原子である原子番号37の同位体である87Rbを、1000個ほどの量子ピンセットと一緒に使って、50-60%ほどの確率で初期状態にセットされるようです。
磁気光学トラップは、
http://qo.phys.gakushuin.ac.jp/~torii/bec/tutorial/chapter2_1.html
が参考になります。
原子に両方向からレーザーを当てることによって、ドップラー冷却と呼ばれる手法で極低温まで原子を冷却することができます。三次元でドップラー冷却された原子を、中心から離れるほどに大きくなる磁場のかかるコイルの中に入れることで冷却した原子がとどまるように働きかけられるようです。
ちなみに、リュードベリ原子というのも調べてみました。リュードベリ原子というのは、原子の名前ではなく、状態のようで、通常は原子核に対して電子は比較的原子核の近くに位置するところ、強いレーザーを当てることによって、電子の軌道を原子核から数百ナノメートル程度の遠くに配置することによってできる原子のようです。リュードベリ原子は電場や磁場の影響を受けやすいようです。
参考
https://www.ims.ac.jp/news/2016/11/16_3576.html
https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2020/2/26/34762
今回採用されたのは原子番号37のルビジウムRbですが、更にその安定同位体である85Rbではなく、同位体の87Rbのようです。
磁気光学トラップによって準備され、初期の光ピンセットによってセットされたリュードベリ原子たちは、次に(Acousto-Optical Deflectors / AOD)と呼ばれる装置を使って動く光ピンセットを用意して、欠けのない二次元配列へと配列し直されるとのことです。
参考
http://www.asitalaser.com/acoustooptic-deflector-aod-p-386.html
今回は開発された同時操作によって、四角形、六角形、三角形など様々な形へとリュードベリ原子を並べ替えることができるとのことです。50-100msくらいの速度で数百の原子を操作し、99%の精度を持つとのこと。
原子は安定した基底状態|g>と、励起したリュードベリ状態|r>に準備されます。これは、原子の配列全体を両方向から波長の異なるレーザーを照射し、2光子ラビ振動と呼ばれる操作によって量子状態を変化させるとのことです。
これらの原子に対する操作は、レーザー励起と長距離のリュードベリ原子同士のファンデルワールス力によって、ハミルトニアンで規定され、ハミルトニアンには2光子ラビ振動の周波数や離調なども含まれています。
最終的にこれらの量子状態に対する操作である量子シミュレーションの計算結果を読み出すには、リュードベリ状態の原子のみが光るような操作を行い、計算結果を読み出し、これも99%の精度で実行可能とのことです。
冷却原子マシンを使いこなすためには、リュードベリブロケードと呼ばれるリュードベリ原子の特定の半径内でリュードベリ状態を維持できないメカニズムを解明する必要があるということですが、今回は原子間の距離を光ピンセットによって操作することによりこのブロケード半径を調整するというのも大事のようです。
感想
面白い話でした。量子シミュレーションと呼ばれる仕組みに対して一定の物理モデルが適用できそうな気がしました。商用として活用はまだまだ難しそうな気はしましたが今後の展開から目が話せません。