量子コンピュータは確かに技術発展していますが、ビジネスで使うにはかなり物足りないです。もっと大きなスケーリングが必要ですが、現状の量子ビット数は物理量子ビットでも超伝導でせいぜい1,000。中性原子でもせいぜい10,000となっています。これからチップ同士とかシステム同士を繋いで100万量子ビットを実現すると言っていますが、せっかく小さい量子なのにすでにシステムが大きいと良さが活かせません。んで、一箇所に集積したいですね。
ということで、スケールするための技術を探しているのですが、そのうちの一つが半導体量子ビットで開発されているExchange Only量子ビットです(と思ってる)。
Universal logic with encoded spin qubits in silicon
超伝導方式では量子ビットの操作にマイクロ波を使います。半導体も同様なのですが、半導体ではマイクロ波を使わない方法も検討されており、マイクロ波フリー技術と呼ばれます。マイクロ波フリーにも複数ありますが、Exchange Onlyはそのうちの一つですが、個人的に注目しています。
通常の量子コンピュータの操作は、1量子ビットゲートと2量子ビットゲートがあるのはみなさんご存知の通りです。1量子ビットゲートは任意の軸周りに回転角度を指定して量子ビットの回転を操作します。2量子ビットゲートでは条件付きゲートを利用して片方の量子ビットの状態に合わせてもう片方の量子ビットに特定の量子ビット回転操作をあてがいます。
Exchange Onlyでは英語の字の通り、「交換のみ」で計算をします。この交換のみというのがどういうことか確認します。
半導体量子コンピュータでは現在主流で研究開発されているのはスピン量子ビットと呼ばれる電子のスピンを使います。向きを決めて、その向きを軸回転で操作します。また、2量子ビットゲートではもつれを作成します。
一方、電子で決まるスピン量子ビットには「交換相互作用」というスピンの相互作用があります。
以下ChatGPTの返答を入れます。
基本的な概念
交換相互作用は、量子力学のスピン統計原理とパウリの排他原理に基づくものです。近接する2つの電子スピンが交換される際に、全体のエネルギーが変化する相互作用として理解できます。
ハミルトニアンの表現
交換相互作用のハミルトニアンは次のように表されます:
ここで:
:交換相互作用の強さ(交換結合定数、エネルギースケール)。J 、\mathbf{S}_1 :電子スピンのスピン演算子。\mathbf{S}_2 :フェルミオン系で一般的な反強磁性結合を示す(スピンが逆方向を向く)。J > 0
仕組み
交換相互作用は、2つの電子が空間的に近い位置に存在し、その波動関数が重なるときに発生します。
-
スピン状態:
- 電子スピンの全体の状態は、シングレット状態(スピンが反平行)とトリプレット状態(スピンが平行)に分かれます。
- シングレット状態(反平行スピン)は低エネルギー、トリプレット状態(平行スピン)は高エネルギーとなります。
-
相互作用の起源:
- パウリの排他原理により、同じスピン状態を持つ電子は空間的に分離する必要があり、これによりエネルギーが変化します。
- このエネルギー差が交換相互作用として観測されます。
量子ビット操作
- 交換相互作用を利用すると、2量子ビットゲート(例えばSWAPやCNOTゲート)が実現可能です。
デコヒーレンスの抑制
- 交換相互作用は局所的であり、比較的長いコヒーレンス時間を維持できます。
動的な制御
- 交換相互作用の強さ(結合定数
)は、量子ドット間の電圧制御によって調整可能です。J - 高い電圧:交換相互作用が強く、スピン間のエンタングルメントが形成される。
- 低い電圧:交換相互作用が弱く、スピンが独立した状態に近づく。
実際の実装
半導体量子ビットでは、次のような手法で交換相互作用が利用されます:
-
量子ドットスピン量子ビット:
- シリコンやGaAsを用いた量子ドット内の電子スピンを利用。
- 隣接する量子ドット間で交換相互作用を調整し、スピン状態を制御。
-
シングレット-トリプレット量子ビット:
- 2つの電子スピンをシングレットとトリプレットの線形結合で表現し、交換相互作用を利用して操作。
-
トリプル量子ドット構成:
- 3つの量子ドットを利用し、1つの自由電子スピンをゲージ自由度として活用(Exchange Only量子ビット)。
と書いてある通り、スピンの相互作用を計算に利用します。Exchange Onlyはこのうち、トリプル量子ドット構成を構築し、3量子ドットを1量子ビットに符号化して計算をします。そうすることによって1量子ビットゲート相当の計算が相互作用だけで実現できます。
Exchange-only (EO)量子ビットにおいて利用される交換結合定数 ( J ) は、量子ドット間の電子スピンの交換相互作用を特徴づける重要なパラメータです。この値は量子ドット間のトンネル結合や電場によって制御され、量子ビット操作やエンタングルメント生成の基盤となります。
J の性質
1. 交換結合定数 (1) 定義
交換結合定数
ここで:
:トリプレット状態(スピン平行)のエネルギー。E_{\text{triplet}} :シングレット状態(スピン反平行)のエネルギー。E_{\text{singlet}}
(2) 電子スピン間の距離とトンネル結合
は主に電子スピン間の波動関数の重なり合いによって決まります。J - 電子スピン間の距離が短いほど波動関数が大きく重なり、
が増加します。J - 電子間トンネル結合
の大きさに依存し、近似的にt とスケールします。J \propto t^2
J の特性
2. EO量子ビットにおける (1) 電圧制御による調整
量子ドット間の電圧を変化させることで、トンネル結合
-
低電圧状態:
- 量子ドット間のバリアが高く、トンネル結合が抑制される。
は小さく、スピン間の相互作用が弱い。J - スピンが「アイドル状態」に近い。
-
高電圧状態:
- 量子ドット間のバリアが低くなり、トンネル結合が増加。
が大きくなり、スピン間の相互作用が強まる。J - エンタングルメント生成やゲート操作に適した状態。
(2) 時間スケール
交換相互作用を用いたゲート操作では、操作時間
したがって、ゲート操作を迅速に行うには
3. EO量子ビット特有の課題
(1) リークエージとエラー
- EO量子ビットでは、交換相互作用に基づくゲート操作中にリーケージが発生する可能性があります。
- 特に、シングレット-トリプレット状態間の相互作用が非理想的な場合、量子ビット状態がエンコードされたサブスペース外に「漏れる」ことがあります。
(2) クロストーク
の値が高い状態では、隣接する量子ビット間でクロストークが発生する可能性があります。J - EO量子ビットアレイ全体での制御には、交換相互作用の強さを適切に分離することが求められます。
(3) ノイズの影響
- 電荷ノイズやハイパーファイン相互作用(核スピンによる磁場ノイズ)が
に影響を与えることがあります。J - 電荷ノイズは特にトンネル結合
の変動を引き起こし、交換相互作用の安定性を低下させる要因となります。t
4. 制御と応用のポイント
(1) ゲート操作
- EO量子ビットでは、SWAPやCNOTといった2量子ビットゲートが交換相互作用に基づいて構築されます。
- ゲート操作の精度は
の安定性に依存するため、精密な電圧制御が必要です。J
(2) 大規模化
- EO量子ビットを大規模化するには、隣接する量子ビット間の相互作用を制御する「ゾーン分離」が必要です。
の値が高すぎるとクロストークが増えるため、適切な配置と電圧制御が求められます。J
ChatGPT先生がいろいろ喋ってますが、半導体量子ビットの作成方法について少しおさらいをします。
半導体量子ドット
参考:
半導体では、z方向は材料で電子を閉じ込め、xy平面方向は電気的に閉じ込めます。閉じ込める方法も多々あるのですが、基本的には全部同じです。
次にその閉じ込めについて、電子を一つずつ閉じ込めるエリアにおくりながら量子ビットの準備をします。最初から空間的に量子ビットが用意されているわけではなく、電気的に操作をして量子ビットを最初に作る操作が必要になります。
参考:
クーロンブロッケードと呼ばれる作用によって量子ビットを単体でエリアに閉じ込めて量子ドットを作ります。そこに外部から磁場をかけることで量子ビットを作成します。
量子ドットや量子ビットを作成するための電気的操作
量子ドットや量子ビットを作成するた目にはプランジャーゲートと呼ばれるドットの入れ物を作るゲートと、バリアゲートと呼ばれる量子ドットをしっかり閉じ込めるゲートがあります。通常ここにマイクロ波発生の回路からマイクロ波を当てて量子ビットの回転操作などを行います。
交換作用はこのうち、バリアゲートを利用します。バリアゲートを弱くすると隣接スピン同士の相互作用が強まるという操作を利用します。そのためマイクロ波の仕組みが入りません。そのため、現在の半導体で利用されるゲートと近い構造だけで量子コンピュータが作れることになります。現在の半導体技術ではトランジスタと呼ばれる計算素子が数百億単位で搭載されているので、普通に考えるときちんとゲート操作ができれば量子ビットも数百億入れられることになります。
部分スワップ
具体的な計算は交換相互作用では最終的に量子状態が交換されるswapゲートと同じものになりますが、これが時間発展で行われるので、部分スワップゲートが作用されます。
量子の場合、
ここで、
この部分スワップゲートと1量子ビットゲートを組み合わせれば任意のゲートが実現できそうですが、1量子ビットゲートがないので、3量子ビットを順番に操作して1量子ビットゲートと同じ操作ができ、さらには6量子ビットあれば2量子ビットゲートが実現できます。
引用:https://www.nature.com/articles/s41586-023-05777-3/figures/3
部分スワップの相互作用はバリアゲートの電圧の操作によって実現できるので、6量子ビットの間のゲート電圧の操作を順番に行うことで、上記のように量子ゲート操作ができます。
量子ゲートの操作回数は増えますが、全体のシステムの構造がシンプルで、スケーリングが可能そう、EO(Exchange Only)の相互作用が局所的なので良さそうな気がします。
EOをうまく使うことで、これまでXYZやHやCXでかかれた量子回路計算もハードウェアごとに最適化されるとしたら、EO向けにうまくエンコードされるような研究も進みそうです。
これからハードウェアごとの開発競争が過熱化すると思われます。超伝導、イオントラップ、中性原子、半導体とそれぞれの方式に対して、高レベルでの量子回路生成だけでなく、ハードウェアごとの実装に最適化されたことでアプリケーションのパフォーマンスも最大化されるような試みも加速しそうです。
EOの場合、ゲートの操作が重要な要因となり、主に精密な制御などが基本となると思います。近年ではQPUのチップ上にCPUをそのまま実装し、量子ビット制御や誤り訂正に利用する構想も進んでいます。半導体を利用した量子コンピュータの開発が爆発的に成功する可能性もあるので、今後数年がとても楽しみです。
弊社も半導体量子コンピュータの開発やチップの設計を進めています。ぜひ世界に先駆け日本で先陣切ってイノベーションを起こしていきましょう!